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背中に柔らかい感触と温もり。 そして素肌を滑る指先を感じて、美希は微睡みから引き戻された。 (……ん…?……な、に?) ビクッと震えが走り、乳首を刺激されている事に気が付いた。 もう片方の手は既に下着の中に潜り込み、やわやわと 薄い茂みをまさぐっている。 まだ半分夢の世界にいた美希は一気に覚醒する。 (やだ…!祈里ったら何考えてるのよ!) 上のベッドにはラブとせつながいるのに……! 何となく恒例となってきているパジャマパーティー。今夜は桃園家。 ラブの部屋でラブとせつなはベッドに、美希と祈里はその下に 布団を敷いて寝ていた。 今まで何度かこう言うお泊まり会はしているが、こんな事をしてくるのは 初めてだった。 「………ん………ふっ………ぅ…んっ……」 (……ーーっ!……せつな?) 上から漏れ聞こえる湿った息遣い。 耳を澄ますと微かに響く濡れた場所を掻き回す音と、 シーツを引っ掻くような衣擦れの音。 「……せつな、声出しちゃダメ…。」 宥めるようなラブの声は、抑え切れない興奮に甘く掠れている。 恐らく必死に声を噛み殺しているだろうせつなの様子を 楽しんでいるのが、ありありと感じ取れた。 (ーーっあん!やだぁ……。) 上の二人に気を取られている隙に、祈里の指は美希の奥まで 忍び込んでいた。 柔らかな秘肉をかき分け、指に蜜を絡め取る。 熱く疼く突起を探り出すと、押し潰すように圧迫しながら 指の腹を擦り付けてくる。 (あっ!あっ!そんなにされたら…!) 乳首と陰核を同じリズムで捏ね回され、快感が出口を求めて 美希の全身を這い回る。 せつなのように、僅かな吐息を漏らす事も許されない。 ほんの少しでも息を漏らせばバレてしまう。 美希は歯を喰い縛り、全身の筋肉に力を入れ、 愉悦に跳ね上がりそうになる体を押さえていた。 「……ほら、せつな、足閉じないの。だから逝けないんでしょ?」 「……っ!……ふぅ…っ!」 「…イカなきゃ、終わらないよ……?」 ラブの声と共に、美希の耳元に祈里の昂った吐息が漏れるのを感じた。 美希の乳首と秘所を弄ぶ指使いが激しくなる。 体の中で膨れ上がる快楽に美希は目を霞ませる。 やがて、キシッ…キシッと鳴っていたベッドの軋む音が止まり、 熱の籠った空気が揺れる。 せつなが、達してしまったのを感じた。 その気配を祈里も読み取ったのか、激しさを増していた 愛撫の手を一端止め、ラブ達の様子を息を殺して窺っている。 ドクドクと体中を駆け回っていた血液が足の間に集まってきた。 美希は疼く体を持て余しそうになりながら、じっと堪える。 しばらくすると、ラブはせつなを促し部屋を出て行った。 覚束ない足取りでラブに支えられながらせつなが付いて行く。 「……どうやら、続きはせつなちゃんの部屋でするみたいね……。」 祈里は美希をコロンと仰向けにして、髪を撫でる。 「美希ちゃん、えらかったねぇ。イイコイイコ…。」 「…祈里ぃ…。」 じっと、声を立てずに耐えた美希を労るように、額から 頬に唇を這わせる。 「頑張った子にはご褒美あげないと、ね?」 美希は自分から下着を脱ぎ、大きく足を開く。 体に燠火のように燻る情欲は、もうとうに限界を迎えている。 早く、滅茶苦茶にして欲しい。もう、我慢なんて出来ない。 「もう…美希ちゃんったら。お行儀悪いよ?」 少し意地悪い祈里の物言いに頬を染めながらも、美希は逆らわない。 僅かな羞恥は快楽へのスパイスにしかならない事を、もう身に染みて 教え込まれてしまったから。 「あんまり大きな声出しちゃダメだからね。」 「あっ!はぁああっ、ああんっ!」 美希の足の間に顔を埋める。 熱く滑らかな舌が、敏感な場所を余す事なく容赦なく責め立てる。 隣の部屋でも、多分同じ事が行われてる。 せつなも抑えていた恥じらいをかなぐり捨て、思う存分ラブに 泣かされているのだろう。 さっき、漏れ聞いた切な気な吐息が美希の耳に甦る。官能に咽び泣くせつなの姿を思い浮かべ、 美希はいつも以上に貪欲に昂るのを自覚した。 今夜は見も世もなく、祈里を求めて乱れてしまいたい。 祈里も、きっと同じ事を望んでるはず。 美希は、自ら祈里の頭を押さえ付けるように腰をくねらせた。 短い夜を、少しでも長く楽しむために。 11-23はラブせつsideとなりますが18禁につき閲覧注意
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「ほらよっ、イース。焼き立てだ、美味いぞ」 「また四ツ葉町に行ってたのね。あの街はそっとしておいてと言ったはずよ!」 「遊びに行くくらいはいいだろう。おまえこそ会いに行かなくていいのか」 「ダメ……よ。私はもう十分過ぎるものをもらってきたわ。今、自分を甘やかすのは 誰のためにもならないと思う」 「……実はな、口止めされていたんだが。ラブって子な、大きな事故に遭ったんだ」 「なんですって!」 「かなりの重症らしい。心配かけるからお前には言わないでと頼まれた」 「……嘘……嘘よっ! くっ」 ホホエミーナ! 我に仕えよっ! 待っていて、ラブ。すぐに行くから! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ラブっ、ラブっ、どこなの? 家に行けば手がかりくらいはあるはず。 ――バンッ 「おかあさん、おとうさん、誰かっ、誰か、ラブのところに連れて行って!」 「その声っ! せつな? せつななのっ?」 「え、ラブ? どうして、重体じゃないの? 大きな事故にあったって……」 「あたしは事故になんてあってないよ。それよりも……おかえり、せつな。夢じゃ……ないよね?」 「苦しいわ、ラブ、本当に無事なのね……良かった」 ――パタパタパタ、ドタドタドタ 「せっちゃん? 本当にせっちゃんなのね」 「せっちゃんが帰ってきたって本当か!」 「おとうさん、おかあさんーーーーただいま」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「そうだったの。きっとその隼人って方は、せっちゃんを家に帰してあげたかったのね」 「はい、多分そうだと思う。でも……あんな悪質な嘘をつくなんて」 「あのね、せつな。今日は四月一日、エイプリルフールって言ってね、嘘をついてもいい日なんだよ。 隼人さんは多分、そのことを知ってたんじゃないかな」 「そんな日があったなんて……でも……」 「ね、せつな。あたしも今から嘘をつくね」 せつなが居なくなって、毎日寂しいの。 ご飯が美味しくなくて、学校やダンスもつまらなく感じて。 楽しみで仕方なかった明日の訪れが、全然わくわくしなくなっちゃったの。 せつなが居ないだけで、こんなに世界から輝きが失われるなんて思わなかった。 こんな気持ちになるのならーーーー引き止めればよかった。 行かせるんじゃ……無かった。 「なんてね、嘘だよ。全然そんなこと思ってないから心配しなくていいよ。 あたしは平気だよ。もうすっかり慣れちゃったし、だから忘れてくれてもいいんだから……」 「ごめんなさい……ラブ。寂しいのは私だけだと思ってた。だから私が我慢すればいいんだって、そう思ってた。 これからはーーーーなるべく会いにくるようにするわ」 「ほんとっ? それは本当なの? せつなっ」 「なんてね、どうかしら。自分で考えなさい」 「ちょっと、それひどいよ、せつなぁ」 「ふふ、エイプリルフールって素敵な日ね、ラブ」 「そうだね、せつな。あたしも今年から好きになれそうだよ」
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せつなが吸血鬼だったらな話 パート2/そらまめ あの日から、何度目かの満月が来た。 ラブに自分が吸血鬼だと知られ、一緒に暮らすことになったあの日から私の日常は変わった。 まず、朝起きてから火を熾す。ということをしなくなった。そんなことをしなくてもコンロの摘みを捻れば火が出るし、自分で材料の調達をしなくても冷蔵庫を開ければ食材が入っているから鮮度の心配もいらない。 また、お風呂が温かい。まあ火を焚いて水を温めれば前にいたところでもできはしたが、如何せん面倒くさいのだ。自分ひとりだけなら行水でいいかと思ってしまい、ついつい水浴びで済ませていた。 それに、布団がフカフカしている。寄せ集めの枯葉やなんやらで作った簡易ベッドもいいにはいいが、やはり羽毛には勝てないようで、いつも熟睡してしまっている。 と、上記の事を住まわせてもらっている感謝と共にラブに言うと、何故だか涙を流して抱きしめられた。 抱きしめられながら、前の場所との一番の違いは、この空間の暖かなぬくもりだとは恥ずかしくて言えないと、そっと苦笑いしながら窓から空を見上げる。 今日も、やってくるのだろう。黄色くて大きなあの月のせいで、まだ午前中だというのに胸がざわつく位だから。それと同時にいつもよりも苛立ちを感じるし、些細な事も気に障る。そろそろ、限界だろうか。 ラブからの血の提供は、ほとんど最小限と言っていいくらいに少なくしている。最初の無意識での半ば暴走したあれのせいで、吸血をするという行為自体に嫌悪していた。いくらラブからの了承があったとしても、本当にぎりぎりになるまでは控えている。 そして、そんな非日常的なことが行われていることは、未だほかの人は知らない。できれば、ずっと知らずにいてほしい。ラブのように受け入れてくれる人ばかりではないとわかっているから。 案の定やってきたのは、丁度おやつ時だろうかという頃だった。騒々しい地響きとナケワメーケを連れてきたウエスターは、今日はナケワメーケと一緒になって攻撃してきた。 「イース!」 「私はもうイースじゃないって言ってるでしょ!」 ウエスターが私を呼ぶ。変わらずイースと呼び続ける彼にいつも以上に苛立ちが募る。いつもより雑な攻撃。当然の事ながらそれは躱されて、逆に死角を作ってしまった私にウエスターからの蹴りが背中から衝撃となって伝わってきた。 「パッション落ち着いて! みんなで連携してナケワメーケを倒さなきゃ!!」 「わかってるっ!」 息を切らせながらピーチ達に並んだ。今の自分が冷静でない事は分かっている。それでも体の内側からくるイライラを抑えきれなくて、奥歯を噛みしめて耐える。 「イース! こちらに戻ってこいっ!!」 「うるさい! 私は戻らないって言ってるだろ!!」 いつもより乱暴な言葉遣い。そのやり取りにみんなはどう思っているだろかと考えても、その反応を見る余裕は今の自分にはなかった。 「余裕が無さそうだな」 「関係無いでしょ」 「今日は、満月だもんな」 そう言って、まだはっきりと出ていない白い月を見上げたウエスターは、いつもとは違って気怠そうだった。横で「満月だと何かあるの?」「さあ?」とベリーとパインが話すのを聞きながらウエスターを睨む。大体私がこうなるのを知っていたから今日襲撃してきた癖に。そういう所も今の私の苛立ちを助長させていた。 「戻ってくる気はないか…」 「当たり前でしょ」 「ならこれをやる」 「っ…!」 少しだけ落胆したような雰囲気をしながら私に差し出したのは、銀色のパウチだった。デザインなどない銀色が日常的ではない仕様を感じさせ、人工さを助長させている。それに入っている中身の液体を私は知っている。血液だ。あの容器からするとラビリンスで支給されているものだろう。 「いら…ない!」 「どうせお前の事だからずっとやせ我慢してるんだろう? でも今日は流石に無理だと思って持ってきた。おとなしく受け取っておけ」 「あなたはもう私の敵なのよ。敵から物を貰うなんて出来るわけないでしょ」 「敵とか味方とかじゃない。だってお前もう、変わり始めてるじゃないか」 「えっ…」 その瞬間、後ろから風が吹き視界の端に髪が映る。プリキュアになっているから桃色のはずの髪が、銀色になっていた。まるでイースの時のように。 ウエスターの背後に月が見える。いつの間にか日が落ちてはっきり見えるようになった黄色く、大きな丸い月。 見てしまった。体がざわつく。動悸が激しい。苦しい。 立っていられなくて、膝を落として地面に手をついた。痛いくらい手のひらを握っても、治まりきらない。 「ぐぁっ……はぁっ…くっ」 「ほらみろ」 「パッションっ!」 「なんで髪の色が…!」 「どこか痛いのパッション?!」 そのうちプリキュアの変身が解けて、代わりにスイッチオーバーした姿になった。 「ウエスター! せつなに何をしたの!!」 未だ地面に俯いて何かに耐えるせつなを庇いながら、ベリーは怒気を荒げて叫んだ。その眼は睨むよりもさらに強くウエスターを射抜く。 「俺は何もしていない」 「ならどうしてせつなはイースの姿になっているの?! なんでこんなに苦しそうなの!!」 「それは今日が満月だからだ」 「茶化さないで!」 「茶化してない。だってイースは…」 「言うな!!」 何かを言おうとしたウエスターを遮るようにせつなが叫ぶ。その声に驚いたベリーが振り返ると、胸に手を当てて苦しそうに、そして悲痛な表情でウエスターを見ていた。そんな反応にも驚いたが、近くにいるピーチがウエスターに対して自分と同じようには追及しない事や、なぜか悲しそうな表情でせつなを見ている事に理解が出来なかった。 「言うな…」 「そいつらに知られたくないのか? 仲間なのに? …よく分からんな。だがそうだな…知られたくなかったら今すぐ俺達のところに戻ってこい」 「なん…で、そんなの…」 「サウラーならこの場面ではこう言うんだろうな。俺はこういうやり方はあまり好きじゃないが、目的は一緒だからまあいいか。どうするイース?」 「そんなの…」 選べるわけない…ラビリンスにはもちろん戻りたくない。ラブは自分の事を知っているからいいが祈里と美希に知られるのも嫌だ。 でも、どちらかを選ばなければいけないというのなら……私は一人になる事を選ぼう。遅かれ早かれこうなるとわかっていたからこそ、今まで必要以上に仲良くなる事を拒んできた。これからは、今までの距離がより遠くなるだけだ。大丈夫。自分は何も失くしてない。だって元々何も持っていなかったんだから。 「せつなの何を知ってもあたし達が仲間である事は変わらないよ!!」 「そうよ。だから脅しにもならないわよ!」 「わたし達はずっとせつなちゃんの味方でいるの!」 「言えばいい……私は何があってもラビリンスに戻るつもりはない。みんなに知られても、私があなた達の仲間に戻る事はないから」 「せつな…!」 ピーチが嬉しそうにこちらを見る。もうラビリンスには戻らない。ただ、ラブ達の元にも居られなくなるだろうから、ラブの眼を見る事は出来なかった。 「そうかい? なら教えてあげよう。イースは君達のようにただの人間ではなく、人の血液を摂取しないと生きていられないのさ。こちらでは吸血鬼と言うんだっけ?」 「え? その声…え? 吸血…鬼?」 脇の茂みからそう言って現れたのはサウラーだった。 「ウエスター、あんまり遅いから見にきてみれば、やっぱりイースにそれ渡すつもりだったんだね」 「うわっサウラー?! えっとこれはその…」 「はあ…全く……ほらもう今日は帰るよ。僕達だって今日はなるべく静かに過ごさなきゃいけないんだから。今日は失礼するよプリキュアのみなさん。イースも、プリキュアを辞めて戻ってくるなら歓迎するよ」 「それは無いわね」 「そうか。じゃあね」 慌てるウエスターとダイヤに戻したナケワメーケを連れて、暗闇に紛れて消えてしまったサウラーが残した言葉は、しばらくの間四人の動きをとめていた。 バキッ!と音がした方向を見ると、ウエスターが壁に穴をあけている。その音は、壁が壊れた音だけなのか、拳が一緒に砕けたのか定かではない。でも、自分たちに限って後者はないか。と、いまだ興奮冷めやらぬ彼を冷やかな目で見ながら紅茶に口をつけた。 「くそっ!! イースの奴!」 「落ち着きなよウエスター。大体こうなることは解っていたんじゃないのか?」 「くっ…!」 断られることを予想していなかったわけではないけれど、あそこまでなって、それでもあちら側にいることが、腹立たしかった。 こちらに適応するよう変えていた姿が無意識に解かれるなんて、それほど切迫しているのになぜあれを受け取らなかったのか。 「俺だって、これは嫌いだけど」 ラビリンスから定期的に送られてくるパック。血液の入ったそれの味が、ウエスターはあまり好きではなかった。無機質な味というかなんというか、そもそも血液の味自体が好きじゃない。あの鉄を噛み砕いているような感じ。だがこれを言うと決まって理解できないといった顔をされるので、いつしか主張することはなくなった。 「君も、そろそろ摂取しておかないとじゃないのか? 最近大食いに拍車がかかっているようだし」 「うっ…わかってる…」 いつからかは覚えていないが、消極的な血の摂り方をしていたら、体がヤバいと判断したのか人より多く食べるようになっていた。それがさらに大食いになると、そろそろ血液が必要だという基準にもなっていて、仕方なくパックを一つ手に取った。 「あー、まじこれまずいわー」 「そんなに嫌なら自分で調達してきたらどうだい?」 「それもなあ…結局同じものだし…」 「まあ僕はどんなものでもどんな味でも必要に応じて摂れればいい。ただ、定期的にというところには煩わしさを感じてしまうけどね」 くしゃっと空になった容器を握りつぶすウェスタ―を横目に、同じように軽くなったそれをゴミ箱に捨て、紅茶を飲む。 「…紅茶には合わないな」 口直しにコーヒーを入れるため立ち上がったサウラーに、締め切られたカーテンの隙間からチラリと月が見えた。 気まずい空気と言うのはこういうのを言うのだろうかと、祈里はチラリと思う。もしくは空気がどんよりしていて重いともいえる。 そう考えてしまうほど、この部屋にいつもの優しい心地よさは漂ってはいなかった。 「あ、あのね…」 ラブがオロオロと視線を彷徨わせた後、小さく口にする。それはどこか、小さな子供が親に咎められる時のように所在なさげで、いつものような勢いはなかった。 「ラブは知ってたのね」 そんな声にいつものように凛とした、ともすればそれよりは低く感じる音程で発した美希の声にビクリと肩があがるラブ。それと同じように、それまで微動だにしなかったせつなの体が少し動いた気がした。 「…うん。知ってたよ」 「いつから?」 「せつながうちで暮らしだすちょっと前から」 「そう」 淡々と、一問一答のように答えては、チクリチクリと体に刺さる空気に、祈里は身動ぎする。 横目に映るせつなは、うつむいた顔をいつまでもそうしていたため、髪に隠れた奥の表情を窺い知る事が出来ずにいる。 吸血鬼。おとぎ話でしか聞いたことがないその単語。空想上の生き物だと思っていた。祈里からしてみればユニコーンや妖精の類と同類くらいの位置にいたそれが、今目の前に居ることに未だ信じられずにいた。だって、せつなはどう見ても自分たちと同じだったから。楽しそうに笑い、おいしそうにドーナツを食べ、言葉を交わし一緒に戦っている。そんなせつなが吸血鬼だというのなら、自分が思っていたよりも吸血鬼という存在は遠い物語のように身構えるものではないのかもしれない。鳥が空を飛ぶように、野良猫が歩くように、何でもない日常の一部でしかないのかもしれない。 そんな風に思うのだ。そう思えるほど、せつなが自分の生活に溶け込んでいて、今更夢物語のように外側の世界には追いやれなかった。 「ウェスタ―がなんか渡そうとしたわよね。あれは何?」 「…あれの中身は…血液よ。ラビリンスで支給されるもので、私達は定期的にあれを飲まなくてはいけない事になってる」 抑揚のないせつなが説明する言葉に、この場にいる全員が耳を傾ける。 「そういう体質だから、こちらに来てかも占い館に居る時は摂取していたわ」 「なら、ラビリンスから抜けた後はどうしてたのよ。まさか町の人を…」 「せつなはそんなことしないよ!!」 美希の言葉を遮って、それまでの声音が嘘のように大声で唸ったのは、まるで絞り出すかのようで、泣きだす一歩手前のようで、思わず祈里は胸前の服を握る。 「せつなはずっと我慢してた! どんなに辛くても必死で抑えて、もしかしたら死んじゃってたかもしれないのに最後までずっと! せつなは自分の欲望に負けて町の人を襲うなんてしない!」 「そう…せつなは死にかけてたのに誰にも言わなかったってことよね」 「うん。あたしがあの日家に呼んでなかったら、こうして一緒に住むこともせつなの体質もわからないままだった。わからないまま、いつの間にかせつなはいなくなってたかもしれない…」 「そうなのせつな? アンタあのままだったらどうするつもりだったの?」 「そ、れは…症状は抑え込んでたし…」 「何事も限界ってものがあるわ」 「ギリギリまで我慢するつもりだった」 「アタシはギリギリのその先を聞いてるのよ」 「それは…その」 「死んでもいいと、思ったんでしょ」 「……」 「人に迷惑かけるくらいなら、理性が負けるくらいならって」 淡々としていた美希の口調が荒々しくなっていく。そこで祈里はやっと気付いた。美希の気持ちが揺れ動いているその原因が、せつなが吸血鬼だったからじゃないことを。 「ふざっけんじゃないわよっ!!」 ついに限界を突破した美希の怒号に部屋の空気が揺れる。 「アタシはねせつなが吸血鬼だったとかそんなことはどうでもいいのよ! だから何? 今更そんなこと聞いたところで、アタシの中ではせつなはもう仲間だもの! 大体せつながラビリンスの一員だったって知った時の方が衝撃度が高いわよ!! そんな経験してるんだからちょっとやそっとのことじゃアンタを否定する気にも仲間外れにすることもできないわ!! アタシがキレてんのはそれじゃない!」 吸血鬼がそんなことと言ったかこの人は。この世界では化け物の類であるそれをそんなことで切り捨てる美希に、心底驚いた。それと同時に、なら何に怒っているのだろうか。という疑問が湧いてくる。もしかして自分がラブから血液を提供してもらっていることだろうか。 「意味わかんないって顔ねせつな。この際だから教えてあげるわ。アタシはね、結構友達多いのよ」 「は…?」 いきなりの友達多い自慢に、自分でもわかるほど気の抜けた声がでた。はてなマークが頭の上を飛び交う。 「モデルだからいろんな人と出会うし、そこからの人脈で知り合いになる人もいるから、普通の中学生よりは顔が広いの。でもね、どんなにたくさん友達ができたからって、ラブとブッキー以上に一緒にいたいって思える人はいなかった」 「美希たん…」 「美希ちゃん…」 まあ確かにそうだろう。幼いころからずっと一緒だったと聞いている。自分にはそういった存在はいないからよくは分からないけど、美希にとって二人を差し置いて一緒に居たいと思う人ができないことは、想像に難くない。 「ずっと三人でいくんだろうって思ってた。高校生になっても大人になっても三人で、その中に入ってくる人の存在なんて考えてすらなかった。でも、初めて思った。この輪の中に入れたい人がいるって。三人が四人になってもいいって思った。それがせつなだった」 「え…」 「今までこんなこと思ったことなかった。せつなを輪に入れても、それが当たり前みたいにすんなり受け入れられた。せつなはもう、ラブとブッキーと同じくらい、アタシの中では大切な友達なの。突然いなくなっていい存在じゃないの」 音もせず、涙が流れた。気付かないほどそっと落ちる雫に、ようやく自分が泣いていることを理解して、少ししてから自分がなぜ泣いたのか理解した。 嬉しかった。とても。自分の気持ちが追い付かないほどの暖かいものが湧き上がっている。 今まで、こんなに自分が大切だと言ってくれたことはあっただろうか。面と向かって怒りながら強い感情を向けて肯定してくれたことなんてあっただろうか。 咎められると思った。自分の大切な仲間を傷つけるなんて最低だと言われると思ったし、それが向けられるべき感情だと思った。それなのに、あまりにも予想外な言葉たちに戸惑いを隠せなくて、感情が揺さぶられることも放置して、流れる涙を拭うことすらできなかった。 「せつなは普通の女の子だよ」 「ラブ…」 「ちょっと意地っ張りで照れ屋で、でも誰よりも優しい女の子で、あたし達の大切な仲間だよ。これから先何があっても、何を知っても変わらない。美希たんもブッキーもせつなのこと大切だから、こんなに心配してるの。だからもうひとりで悩まないで。あたし達がいる。大丈夫」 歪む視界でライブ会場で見せたあの時のように優しい目でほほ笑むラブ。左右を見れば同じように美希と祈里も笑いかけてくれた。拒絶ではないその表情に、この部屋の温度が上がった気がした。 「ニンニク食べられる?」 「ええ」 「教会が苦手とかは?」 「この前ブッキーとお祈り行ったじゃない」 「聖水が苦手とか?」 「聖水って何…?」 「なら十字架は?」 「教会で見たけど特に何とも…」 「陽の光は?」 「問題ないわね」 「トマトジュース好き?」 「好きだけど…ってそれ関係あるのラブ?」 「なんかつまんないわね」 質問攻めの後、美希が心底つまらなそうに吐いた言葉に、せつなはがくりと肩を落とした。 どうもこちらの世界の吸血鬼は弱点が多いらしい。血液を摂取すること以外普通の人と変わらないせつなには、特有の弱点はなかった。 「身構える必要すらなかったわね。吸血した相手を吸血鬼にするとか眷属にするとかもないし」 「あっ…それは…」 「でしょ? だからせつなもそんなに恐々しなくていいのになーってずっと思ってたんだよね」 「満月には症状が強くなるってなんだか狼男みたいで面白いね」 「ブッキー、それ多分面白い所じゃないと思う」 わいわいと話が盛り上がる中、せつなはこの三人にまだ伝えていないことがある事実を、言おうか言うまいか迷って、結局言わずにいる事にした。それは症状といったものではなく、通例のようなもので、しきたりの様なものだったから、特に害はないと思った。 吸血鬼がそこら中で誰彼構わずに吸血していったら、いくらラビリンスとはいえ統率が取れなくなる。だから、通常は支給されてくるものを摂取するが、自分の意思で誰かに対して初めて吸血をする時は、それは求婚と同じ意味を持つ。そして吸血を受け入れられたら晴れてパートナーになる。もちろんそんなことお構いなしにする人もいるが、そういう意味も持つのだと教えられた。だから慎重になりなさいと。 あの時半分無意識だったとはいえ、初めて自ら人に吸血を行った。そしてそれはラブに受け入れられた。そんなことを思うと、急速に顔が熱くなっていくのがわかった。 「あれ、せつな顔赤くない? もしかして熱ある?」 「な、ななんでもないから! 大丈夫!!」 「それほんとよねせつな?」 「具合悪かったりする? 無理してない?」 疑うような美希の目線も、祈里の心配そうに眉をハの字にしているのも、ラブにおでこに手をあて熱を計られるのも、恥ずかしさで誰の目線も見ることができなかった。 このことは自分の胸の内に仕舞っておこう。永遠に。 そんなことを思いながら、いまだ疑う三人への言い訳を必死に考えてあたふたする。 そうして、満月に輝く空を背に、まだまだ消えない部屋の明かりと共に夜は更けていった。 旧47は、この少し前のお話。
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かまくらの中で。 「はい、お餅焼けたよ!熱いから気をつけて」 「ブッキー、お醤油取って」 「はいどうぞ。海苔もあるわよ」 「七輪ってあったかいのね。知らなかった……」 「美希ちゃんかけすぎよ!」 「いいの。いただきまーす。熱っ!」 「んもー、だから言ったのに」 「美希ちゃん見せて!」 「らいろうぶ、らいろうぶ……」 「いいから早く見せて!」 「真っ赤なはんてんは幸せの証……」 「ぶつぶつ言ってないでせつなも食べよ?」 「大変!唇の端っこが赤くなってるわ!すぐに冷やさないと!」 「ホ・・・ホントに大丈夫だから・・・。」 「ちょっと待ってて!」 そう言うが早いか、壁の雪を削って集め、美希の火傷した箇所に押し当てるブッキー。 「ちょっ、そんな事したらブッキーの手が冷えちゃうじゃないの!」 「大丈夫・・・。美希ちゃんのためだったら私、どんな事でも・・・。」 「ブッキー・・・。」 「あ~あ、二人の世界に行っちゃったよ・・・。 仕方が無い、もう一個かまくら作ってそっちに移動しようか。せつな。」 「もぐもぐ・・・(そうね・・・。)」 ラブせつ二人、かまくら内でしばらくキャッキャウフフしまくり、疲れて少し会話が途切れた時に せつなから、ぽつりと。 「ねえ、ラブ」 「え?」 「思ったんだけど・・・ここなら、今、誰にも見られないわね・・・」 「・・・・・え?・・・え?・・・・・ぇええぇぇーーーー?!?!? せ、せせせ、せつなそれってどういう・・・・$*&%”@~~****!」 「こういう・・・」 「!!!!!!!」 「ラブ・・・。」 「(はっ、はわわわわ、せつなの手が、顔がこっちに、はわ、はわわ~・・・)」 「こういう・・・。」 「!!!!!~~っ、はわわ、はわはわはわ!」 「ほ~ら、こんなに変な顔~、うふふ、うふふふふ。」 「・・・はわっ!、せ、せつな酷いよ~、いきなり口に指突っ込んで変顔させるなんて~。」 「あははは、ゴメンなさい、ちょっと空気重かったから、うふふふ。 (あ、危ないとこだったわ。咄嗟にふざけて誤魔化したけど、一瞬本気でラブの唇を奪いそうに)」 「もーせつなったらー(笑) (なーんだ焦って損しちゃった。てっきりせつなからキスでも されるのかと・・・あたしったらヘンな期待し過ぎ~、せつなにバレなくて良かったよ!)」 ラブ「へっくちん!」 せつな「くしゅん」 美希「へくち」 祈里「くしゅっ」 タルト「そりゃそーやで。」 シフォン「きゅあ?」 アズキーナ「は、恥ずかしい…」 あゆみ「これ飲んであたたまりなさい、みんな」 せつな「甘い香りがする.....」 ラブ「ココア?ちょっと違うかなー」 祈里「うん。ちょっと違うかも」 美希「おばさま、完璧すぎですよ」 あゆみ「さっすが美希ちゃん!」 ラブ「ん?」 せつな「???」 祈里「あっ!なるほどね」 美希「ブッキーならわかると思ったケド」 ―――ホットチョコレート――― あゆみ(いつまでも仲良くねっ♪) 「もう食べれないや」 「私も…」 「ブッキー。それは来月の話でしょ!」 「ごめんなさい。でも次焼けちゃった…」 山盛りのクッキー。普段料理のしないブッキーはただひたすら焼まくるのでしたw 圭太郎「だったら僕が食べちゃうよ~」 ラブ「とぉ!」 せつな「おとうさん!!」 美希「おじさま…。見損ないました…」 祈里「あれれれれ???」 あゆみ「いいのよ。あとでたっぷり叱っておくから、ね♪」 那由他「だったら私が食べようかしら」 せつな「お、お前は!」 あゆみ「あらいらっしゃい」 ラ美ブ「えぇぇぇぇ!?」
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「ん・・・」 うっすらと目を開けると、窓の外には既に夜の帳が降りていた。 事後の何とも言えぬ気だるい空気に包まれながら、せつなはゆっくりと身を起こす。 身支度を整えながら、せつなはこの数日を振り返る。 いつでも優しく迎え入れてくれる父母と過ごした暖かいひと時。 固い絆で結ばれた親友達と過ごした楽しいひと時。 ―――そして、最愛の人と過ごした甘いひと時。 また新たに増えたそれらの思い出を胸に、せつなは再び旅立つ―――復興の地へ。 「ん・・・せつな・・・」 未だ夢の中にいるであろうラブを見やり、せつなは小さく呟く―――ごめんなさいと。 そして、先程まで自らが横になっていた空間に手をつき、ラブにそっと口付ける。 ―――また戻って来るという誓いを込めて。 眩いばかりの赤い光が瞬き、すぐに消え去る。 静寂に包まれるラブの部屋。 ラブの目尻から一粒の滴がすっ、と流れて落ちた。
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渡辺曜 詳細にはネタバレを含む概要が書かれている場合があります スレタイ キャラクター 詳細 備考 日付 【SS】鞠莉「耳かき上手なんだって?」果南「鞠莉まで……」 果南・曜 詳細 ほのぼの 20160416 【SS】曜「千歌ちゃん!実は私レズなんだ!」 千歌「へ?」 Aqours 詳細 ようちか 20160416 【SS】曜「最近千歌ちゃんを見るとドキドキする…」【よーちか】 Aqours 詳細 ようちか 20160418 【SS】うちっちー「キミがボクを着るんだよ」曜「え?」 うちっちー・曜 詳細 20160527 千歌「5億年ボタン…?」 曜・千歌・梨子 詳細 ホラー 20160709 曜「梨子ちゃんのノートに自作のレズ小説が書いてあった……」 曜・梨子 詳細 コメディ 20160820 【SS】曜「ステイ・アウェイ」 曜・千歌 詳細 シリアス 20160818 ダイヤ「お二人の出会いは学生時代の…」曜「…」 曜・善子 他 詳細 20160904 曜「スレを過去ログ倉庫にしまう仕事?」 曜 詳細 20160910 梨子「攻め受け分類学」 曜・梨子 詳細 コメディ 20160909 【ss】曜「変身!仮面ライダーヨーソロー!!」千歌「よ、曜ちゃん…?」 曜・千歌 詳細 短編・ようちか 20160923 花丸「普通怪獣チカチーと、万能超人ヨーソロー」 千歌・曜 他 詳細 ようちか 20160926 テレビ「――豊洲ではチカスイの問題が依然として…」曜、梨子「!?」 梨子・曜 詳細 カオス 20160926 曜「普通怪獣育成キット」 曜・千歌・梨子 詳細 20161002 曜「ついに地元に牛丼屋さんが出来たよ!」 曜 他 詳細 短編 20161004 曜「鞠莉ちゃんお金貸して!」鞠莉「ハ~イ♪」 曜・鞠莉 詳細 ようまり 20161008 曜「あ~、確かに処女ってめんどくさいからなぁ~」 曜・Aqours 詳細 コメディ 20161008 【SS】曜 「幽霊は、輝けないですか?」 曜・ダイヤ 他 詳細 シリアス・感動 20161018 テロリスト「この学校は我々が占拠した!」曜「はぁ…やれやれ」 曜・Aqours 詳細 ようハー・コメディ 20161022 曜「これ着て」善子「千歌さんの衣装じゃ、、?」 曜・善子 詳細 ようよし 20161030 曜「千歌ちゃんの声を合成してエロボイスを作ろう」 曜 他 詳細 コメディ 20161027 マスター「あーあー、渡辺君。ちょっと…」 曜・千歌 詳細 短編 20161031 【ss】曜「は、初めてのデート……!」 【立て直し】 曜 詳細 エロ・R-18 20161031 曜「千歌ちゃん、何かいつもと違わない?」干歌「え、何が?」 曜・Aqours 詳細 短編・コメディ 20161031 曜「私と千歌ちゃんのみかんな関係」 曜・千歌 詳細 ようちか 20161106 【SS】果南と曜で短編 曜・果南 詳細 ようかな・短編 20161106 曜「うぅ…善子ちゃんかわいいなあ…」ムラムラ 曜・善子 他 詳細 ようよし・コメディ 20161121 曜「千歌ちゃんが発作で倒れた……?」 曜・千歌 他 詳細 ようちか・シリアス 20161117 曜「恋ができない吸血鬼」 曜・鞠莉 他 詳細 ようまり・恋愛 20161203 曜「渡辺曜、いきます!」ピョン クルクル ザップーン 曜 詳細 カオス・バトル 20170408 千歌「後ろの正面だあれ?」 Aqours 詳細 ホラー 20170521 千歌「曜ちゃんが格闘漫画にはまっちゃった」 ようちかりこ 詳細 短編・コメディ 20170523 曜「お泊まり会で全裸で歩いてたらバレた」 曜 詳細 短編・コメディ 20170704 曜「赤色水面に囲まれて」 曜・Aqours 詳細 シリアス・鬱 20170806 曜「え?千歌ちゃん留守なんですか?」 曜・千歌 詳細 短編・ようちか 20171027 曜「最後の日」 曜・鞠莉 詳細 短編・ようまり 20171104 曜「Aqoursメンバーを攻略できるギャルゲー…!?」 詳細 安価・短編 20171125 千歌「ロボ曜ちゃんの逆襲」 曜・千歌 他 詳細 ようちか・シリアス 20171127 千歌「馬鹿には見えない衣装?」曜「うん」 千歌・曜 他 詳細 短編・コメディ 20171128 【SS】 曜「死神との契約」 曜 他 詳細 シリアス 20171204 千歌「もっともっとー!ほら!勢いよく挿れて!」 曜「……っ!」ヌプッ!ヌプヌプヌプヌプ! 曜・千歌 他 詳細 ようちか 20170723 曜「独裁国家」 曜・Aqours 詳細 シリアス・鬱 20171217 曜・善子(会話がない!) 曜・善子 詳細 ようよし 20160925 曜・善子(眠れない!) 曜・善子 詳細 ようよし 20180104 うちっちー「……」曜「……」 曜 他 詳細 短編・ようハー 20170317 曜「3人で動物園!」 ようちかりこ 詳細 サスペンス 20180205 善子「曜さんが私の部屋のコタツの縁をつかんで腰を振っていた」 善子・曜 詳細 ようよし・コメディ 20180219 曜「鞠莉ちゃんの分からず屋!」鞠莉「分からず屋は曜の方でしょ!」 曜・鞠莉 他 詳細 ようまり 20180311 曜「恐竜時代にタイムスリップしちゃったよ」 ようちかりこ 詳細 短編 20180311 千歌・ルビィ「水泳部の曜ちゃんを取り戻すよ!」 CYaRon! 他 詳細 短編・ほのぼの 20180328 千歌「あっあっあっあっ?」曜「業務分掌」パンパン 曜・千歌 詳細 短編・ようちか・カオス 20180418 曜「私って果南ちゃんに嫌われてるのかな……」千歌「え?」 曜・果南・千歌 詳細 短編・ようかな 20180421 曜「聖良さん、おっぱい揉ませて」 曜・Saint Snow 詳細 短編・エロ 20180427 月曜「ヨーソロー!来ちゃったであります!」 曜・千歌 詳細 短編・コメディ・ようちか 20180729 千歌「曜ちゃんエグゼ、トランスミッション!」 曜・Aqours 詳細 ようちか 20181018 曜「冷蔵庫にお酒入ってる……飲んじゃえ」 曜・Aqours 詳細 短編・コメディ 20181126 千歌「曜ちゃん、早く今週の恋人料金払ってよ」 千歌・曜 他 詳細 短編・ようちか 20161122 果南「良い?飲ませて飲ませて眠らせる、それで家まで送るって言って狼、分かった?」曜「ラジャー!」 曜・果南 詳細 短編・ようかな 20190114 鞠莉「いい!?絶対に悪い女に捕まっちゃだめよ!」曜「はぁ」 鞠莉・曜 詳細 短編・ようまり 20190116 曜「ダイヤさんの事これからはダイヤちゃんって言っていいですか?」ダイヤ(これは!?) 曜・ダイヤ 詳細 短編・ダイよう 20190115 曜「ドラゴンボールの好きなキャラだれ?」 曜・Aqours 詳細 短編 20190123 曜「ムラムラしてきたからしこりんぼ大会でも開催しますか!」 曜 詳細 短編・コメディ 20170810 (*• ᴗ ひ*)ゞ ギアスを手に入れたヨーソロー!! 曜・Aqours 詳細 短編・顔文字・コメディ 20190219 曜「梨子ちゃんの書く字がエロい」 曜・善子・梨子 詳細 短編・コメディ 20190221 善子「やばいわ曜!昨日見たえっちな漫画あったでしょ!」曜「あれが何?」 曜・善子 他 詳細 短編・コメディ 20190416 善子「パンチラスポット寄ってかない?」曜「いいね」 曜・よしまるびぃ 詳細 短編・コメディ 20190417 善子「ついにこの日が来たわね!」曜「スリーサイズ測定でありますな!」 曜・善子 他 詳細 短編・コメディ 20190430 善子「ものまね」 曜・善子 他 詳細 ほのぼの・コメディ 20190505 善子「このぬいぐるみ全然取れないわ……」曜「クレーンゲームなら任せて!」 曜・善子 他 詳細 短編・コメディ・ようよし 20190509 【安価】善子「帰りのバスの雑談」 善子・曜 詳細 安価・ようよし・ほのぼの・コメディ 20190504 曜「貴女との空」side曜 曜・善子 他 詳細 シリアス・鬱・ようよし 20190619 たかみかん@裏垢女子「今日のブラは大人っぽいやつなのだ? #裏垢女子と繋がりたい #自撮り」 千歌・曜 他 詳細 短編・エロ 20190616 いつき「美味しい?昔振った女から貰った差し入れは。」ニコニコ 曜「ブーッ!!」 曜・いつき 詳細 短編 20190708 梨子「…私の乳首って大きいのかな…」曜「!?」 梨子・曜 詳細 短編・ようりこ・エロ 20190715 曜「り、梨子ちゃんがそんなことする訳…」 曜・梨子・ルビィ 詳細 シリアス・恋愛・ようりこ・よしルビ 20191014 曜「AT限定免許って(笑)」 千歌「うぅ…」 ようちかりこ 詳細 短編・コメディ 20160922 善子「ねえ曜!最近みんなマスクしてるけどマスクとパンツの色は比例するんじゃない?」曜「天才」 善子・曜 詳細 短編・コメディ 20200316 【安価】曜「100レス後に死ぬ渡辺曜...?」 曜 他 詳細 短編・安価・コメディ 20200322 千歌「よーちゃんが風邪をひいた日」 曜・千歌 詳細 短編・ほのぼの・ようちか 20200423 曜「善子ちゃんってさー、なんか首とか耳とかが性感帯っぽい顔してるよねw」善子「どんな顔よw」曜「……」耳フー 曜・善子 詳細 短編・コメディ・ようよし 20200507 曜「ようちかノート?」 曜・千歌 他 詳細 シリアス・友情・ようちか 20200519 曜「リモートで海に行こう!」善子「はぁ?」 曜・善子 詳細 短編・ほのぼの・ようよし 20200520 千歌「『高海千歌面接』始めるのだ♪」曜「ヨーソロー♪」 千歌・曜 詳細 短編・ほのぼの・ようちか 20200608 曜「会いたい会いたい自粛期間」 曜 詳細 短編・ほのぼの 20200608 (*; ᴗ ;*)ゞ「マウス壊れたであります」ノcリ;´o` ル「ごめんなさいずら…」 曜・花丸・善子 詳細 短編・顔文字・コメディ 20200706 曜「ホントは全部、果南ちゃんが悪いのに」 曜・果南 他 詳細 シリアス 20200720 ダイヤ「曜さん、果南さん。あなたたちにはビーチバレーの試合に出ていただきますわ」 曜・果南 他 詳細 友情・ようかな 20200810 梨子「曜ちゃん、肩に糸くずついてる」曜「え、ホント?」 梨子・曜 他 詳細 ほのぼの・コメディ 20200813 曜「うわぁ~……結構強く降ってきちゃったね……」梨子「そうね、もう髪の毛までびしょびしょ……」 曜・梨子 詳細 短編・ようりこ 20200821 梨子「雨の日、二人の距離」 梨子・曜 詳細 短編・ほのぼの・ようりこ 20200828 ルビィ「曜ちゃん…あのね…」 曜「なに?」 ルビィ「言わない…?」 曜「…うん」 曜・ルビィ・鞠莉 詳細 短編・コメディ・カオス 20200907 曜「お願い梨子ちゃん!私の衣装でミスコンに出て欲しいの!」梨子「……」 曜・梨子 他 詳細 コメディ 20200926 曜「お父さんおかえりなさーーーーいっ!!」ガバッ 曜・曜パパ 詳細 短編・ほのぼの 20201110 曜「泥棒猫をぶっ飛ばせ!」 曜 他 詳細 短編・サスペンス・コメディ 20201204 善子「ねえ、そういやどうして曜って浦の星にしたの?」曜「ん、どしたの急に?」 ようちかなん・善子 詳細 短編・ほのぼの・ようちか 20201215 目隠し曜ちゃん「やぁ、五条悟だよ」 ようちかりこ・善子 詳細 短編・コメディ 20210109 曜「ようよしが欲しいと思う今日この頃の曜ちゃん」 善子・曜 詳細 短編・ほのぼの・ようよし 20210116 曜「善子ちゃんって>>3だよね」 曜・善子 詳細 短編・安価・コメディ・ようよし 20210205 曜「消しゴムのおまじない?」 曜・善子 他 詳細 短編・ほのぼの 20210218 鞠莉「リップケアのお裾分け」 曜・鞠莉 他 詳細 ようまり 20210228 曜「私に元気をくれる人」 曜・鞠莉 詳細 短編・ようまり 20210314 曜「ほっぺをくっつけると幸せになれるのかぁ……」 曜・梨子 他 詳細 短編・ようりこ 20210327 鞠莉「お菓子作りは笑顔の源」 曜・鞠莉 詳細 ほのぼの・ようまり 20210330 鞠莉「カレーなる晩餐」 鞠莉・曜 詳細 短編・ほのぼの・ようまり 20210409 鞠莉「全速前進ヨーソロー!曜ちゃん天気予報の時間だよ!」 鞠莉・曜 詳細 短編・ようまり 20210426 曜「雨傘の音」 曜・鞠莉 詳細 短編・しんみり・ようまり 20210430 梨子「狙った獲物は逃がさない、怪盗リリーなんだから♡」 梨子・曜 他 詳細 20210512 千歌「よーちゃんの秘密」 千歌・曜 他 詳細 短編・ようちか 20210513 曜「みてみて梨子ちゃん!夏服だよ!」梨子「……」 曜・梨子 他 詳細 短編・ほのぼの・ようりこ 20210517 曜「玄関ですること」 曜・鞠莉 詳細 短編・ようまり 20210523 鞠莉「怖い夢を見た日には」 曜・鞠莉 詳細 短編・ようまり 20210605 曜「暗記の力で赤点を回避するよ!」梨子「……」 曜 他 詳細 短編・コメディ 20210607 曜「ま、鞠莉ちゃん!」鞠莉「あら曜、どうしたの?」 曜・鞠莉 詳細 ほのぼの・ようまり 20210606 梨子「曜ちゃん最近善子ちゃんとどこ行ってるの?」曜(マズイ!梨子ちゃんにだけはバレるわけにはいかないであります……) 曜・梨子 詳細 短編・コメディ・ようりこ 20210621 鞠莉「ねぇ曜。マリーのこと、お姉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ?」 曜・鞠莉 詳細 短編・ほのぼの・ようまり 20210630 曜「天の川、空を染めあげて」 曜・鞠莉 詳細 短編・ようまり 20210707 Aqoursのえほん『せいふくヨーソロー』 曜・Aqours 詳細 短編・ほのぼの・画像有 20210710 【教えて】よう(どうしよう、シャツが透けて千歌ちゃんのブラちゃんが…)【アゼリア】 AZALEA・曜・千歌 詳細 短編・コメディ 20210717 曜「鞠莉ちゃんにナンパされた」 曜・鞠莉 詳細 ほのぼの・ようまり 20210719 曜「鞠莉ちゃん!わ、私を抱いてっ!」 曜・鞠莉 詳細 ほのぼの・ようまり 20210723 梨子「ふーん、曜ちゃんってこういう系のが好きなのね」曜「そ、それはその……」 曜・梨子 詳細 短編・コメディ・ようりこ 20210810 鞠莉「曜っておっぱい、ほーんと大好きよね~」曜「ち、違うもんっ!!///」 曜・鞠莉 他 詳細 短編・コメディ・微エロ・ようまり 20211018 曜「千歌ちゃんがクリスマスデート?!」 曜・千歌 他 詳細 短編・ようちか 20211224 曜「ドキドキで梨子ちゃんと両想いを目指すよ!」梨子「……」 曜・梨子 詳細 短編・コメディ・ようりこ 20220201 曜「でも寒い時期に遅刻しちゃうのは仕方なくない?」梨子「……」 曜・梨子 詳細 短編・ほのぼの・ようりこ 20220303 曜「誕生日だからお願い一個だけ聞いてあげるね!」梨子「ほんとに?じゃあ……」 曜・梨子 詳細 短編・ようりこ 20220417 花丸「マルは曜さんが嫌い」 曜・花丸 他 詳細 しんみり・カオス・ようまる 20180225 曜「OK, Yoshiko. 目覚ましセットして」 Yoshiko「ヨハネよ」 曜・善子・梨子 他 詳細 ほのぼの・ようよしりこ 20220705 曜「お願い梨子ちゃん!えっちな自撮りちょーだい!」梨子「へっ!?/////」 梨子・曜 詳細 コメディ・ようりこ 20220719 曜「お金も無いし、アルバイトでも始めてみよっかなぁ~」梨子「えっ?」 曜・梨子 詳細 短編・ようりこ 20220808 曜「ラブライブ板にスレ立てしようっと」 曜 他 詳細 短編・コメディ 20221123 曜「浮気禁止!」梨子「えっ?」 曜・梨子 他 詳細 ほのぼの・ようりこ 20221224 梨子ちゃんの「頑張れない時は頑張らなくてもいいんだよ」の言葉を信じ続けちゃった曜ちゃん 曜・梨子 詳細 短編・ようりこ 20230201 梨子「狙った獲物は逃がさない。怪盗リリー、華麗に参上!」曜「待て~!怪盗リリー!」 曜・梨子・Aqours 詳細 ようりこ 20230327 曜「はい!えっと……高海曜です!」千歌「……」 曜・千歌 詳細 短編・ようちか 20230815 曜「転売で億万長者を目指すであります!」梨子「……」 曜・梨子・善子 他 詳細 短編・コメディ・ようりこ 20240401 R-18G スレタイ キャラクター 詳細 備考 日付 曜「大変なことになった……」 梨子・曜 他 詳細 グロ・ホラー 20190119
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夏休み最後の日曜日、せつなとラブは、美希とともに祈里の家にお呼ばれしていた。 「ヤッホー、ブッキー」 「お邪魔しまーす」 「ブッキー、こんにちは」 「いらっしゃい!」 笑顔の祈里が、元気いっぱいに出迎えた。 身につけているのは、彼女をいちばん美しく見せる色。 爽やかなライムグリーンのブラウスに、レースをあしらったクリームイエローのミニスカートを合わせていた。 その装いはまるで、駆け抜けようとしている夏を惜しむ花の精のような、そんな儚さをたたえている。 彼女は今日、みんなを精一杯もてなそうと張り切っていた。 昨日から父や母を手伝い、余念なく準備をしていたのだ。 みんな、喜んでくれるかな?ふふっ。 みんなの驚いた顔を思い浮かべると、自然と浮足立ってくる。 今にもはしゃぎ出しそうな祈里を見て、お客の3人は口々に言う。 「ブッキー、今日の服とっても可愛いね!」 「ほんとね」 「おめかしして、スキップまでしちゃって、何かいいことでもあった?」 「いやだなー、何にもないよ。ただ皆と楽しく過ごしたいだけだってば」 話しながら4人が辿り着いたのは、山吹家の裏庭。 その真ん中に鎮座しているのは、若草色の装置だ。それを初めて見たせつなには、ミニサイズの滑り台に見える。 「キャー!やったー!」 「おじ様の手作り、久しぶりね!」 その装置を見たラブと美希は、喜びの悲鳴をあげている。 わけがわからずポカンとしているせつなの背中を、祈里がそっと押した。 「せつなちゃん、こっちこっち」 促されるままに装置に近づく。 縦に割った竹を幾つか組み合わせ、傾斜をつけている。 一番下にはザルの乗ったバケツが置かれていた。 「これは……なあに?」 尋ねるせつなに、祈里はウインクを返した。 「見てて。始まるよ!」 竹の滑り台の一番高いところから、祈里の母・尚子が何か白いものを置いた。 水が白い塊を押し流していく。 いつの間にか箸と器を持ったラブと美希が、争うように奪い合う。 「アタシの勝ちぃ!」 「ズルイよ美希たん!」 「まあまあラブちゃん、まだまだ沢山流すわよ」 尚子が笑う。美希も、ラブも笑う。それを見て、せつなも笑った。 そんなせつなに箸と器を渡しながら、祈里が教えてくれる。 「流し素麺、っていうんだよ。子供の頃、夏になるとよくここでしてたの」 「お素麺を流しているだけなのに、何だかすごく楽しいのね」 微笑むせつなの視線の先には、素麺バトルを繰り広げるラブと美希の姿。 「また美希たん!もおおっ!あたしも食べたいのにー!」 「悔しかったら取ってみなさい」 「むー!次こそ負けないよ!トリャー!」 ラブの箸先が素麺を捕らえようとした瞬間、真っ赤な塗り箸につかまれた素麺が宙を舞った。 「わたしの勝ちね」 口の端だけを引き上げて笑うせつなに、その場の者たちは気圧されたように静まり返る。 一瞬見せた婀娜っぽい微笑は、どことなく銀髪だった頃の面影にも似て。 「ず、ズルイよせつなー!!」 ラブの叫びなどものともせず、せつなは素麺をもぐもぐと頬張ると、ニッコリと微笑んだ。 「おいし!」 そこからは、皆で笑いながら沢山食べた。 ラブと美希は子供の頃と同じ笑顔で、せつなは心から楽しそうに。 祈里は感謝した。皆でこうして楽しい時を過ごせることに……このありふれた幸せに。 ――――ありがとう。
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“ひゅん” 突然、せつなの足元から旋風が巻き起こる。それが広がるかのように強い風が吹き付け、木々の梢を大きく揺らす。 たっぷりの水分を含んだ、青葉の匂いを運ぶ温かい風。 陽の短くなった秋の夕方には、決してあり得ないはずの――――それは、真夏の風だった。 せつなを中心にして、空間があるはずの無い姿へと変転していく。 儚げな夕日は、突き刺さるような暑い日差しに変化する。 木々はそれまでの紅葉が嘘であったかのように、深緑の命の輝きを取り戻す。 (何が……起こっているの?) 背後から人の気配を感じて、せつなはとっさに身構える。そして気が付く。 それは、近寄ってくる人物を敵として認識していること。相手から、殺気を、戦意を感じ取っていること。 この世界に住むようになって、久しく忘れていた感覚だった。 一人の少女が近づいてくる。 薄いグレーの半袖シャツに、黒のハーフパンツ。年頃の女の子にしては珍しいシンプルな服装。 何も持たない両手は、固く拳を握りしめる。瞳に闘志を讃え、ミディアムレイヤーの黒髪を風に揺らしながら―――― 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。せつなが帰る日(後編)――』 (これは――――かつての私? 夢でも見ているの? 違う! 夢は匂いまで感じ取ったりしないわ) 黒髪の少女はせつなに気が付くこともなく、歩を緩めずに一本道を真っ直ぐに進んでいく。 このままでは衝突する! せつなは横に移動して道を譲ったものの、肩と肩とがぶつかりあってしまう。 ぶつかりあってしまう――――はずだった。 少女の肩はせつなの肩をすり抜け、何事もなかったかのようにそのまま歩き続けた。 (幻覚……じゃない、気配や殺気まで感じ取っているのだから。時間、いや、空間がズレているの?) だとしたら、自分だけ相手を知覚できるはずもない。原因は判らないが、ラビリンスの科学力すら超える奇跡の力が働いているらしかった。 とにかく少女の後を追う。 (私の記憶の通りなら、後、二百メートルほどで……) 向かい側から、同じくらいの背格好の女の子が駆けて来る。 ピンクにハート柄のタンクトップ。黒のショートパンツ。そして、薄茶色の髪の大きなツインテール。 瞳に強い決意と、深い愛を讃えた少女。 二人が対峙したその瞬間、空が彼女たちの心を映したかのように雲を纏う。風は、見守るようにピタリとその動きを止めた。 「お前を探しに行くところだった。わざわざ現れるとは、手間が省けたよ」 「気が合うね。あたしもせつなに会いに行こうとしてたとこだよ」 「今日こそ! お前と決着を付ける」 「うん、そうだね。こんなこと、もうやめにしよう。ううん、必ず止めさせてみせる!」 “スイッチ・オーバー” “チェインジ・プリキュア・ビートアップ” 「お前が友達だと思っていたせつなとは、この私。お前の変身アイテムを奪うために近づいたのだ。そうとも知らず気を許すとはな」 「今でも友達だと思っているよ。その友達をラビリンスから抜け出させるために来たの。あたしの全てを賭けて!」 「お前の――――そういうところが頭にくるんだよ!」 何もかも記憶の通り。イースとキュアピーチに変身した少女たちは、激しい戦いを繰り広げる。 静まった風の代わりに、イースとピーチの拳と蹴りが大気を切り裂く。 更に近づいてくる二人と一匹の足音。美希、祈里、タルト、シフォンだった。彼女たちもせつなには気が付かない様子だ。 (干渉のできない過去の追体験というわけね。私に何を見せようというの? 全て知ってることなのに) 「アタシたちも変身よ!」 「うんっ」 「待って! ここはあたしに任せて。お願い、二人は手を出さないで」 イースはピーチ以外の者には一瞥もくれない。どうでもいいからだ、彼女たちが参戦しようとしまいと。 勝利のために、戦っているのではないのだから……。 雨足が強くなる。風の吹かない静かな森の中、小さな水滴だけが自然の存在を主張するかのように。 二人の悲しみを、共に嘆いているかのように―――― イースとピーチの戦いは更に激しさを増す。 見ているだけで、せつなにも二人の気持ちが伝わってきて、苦しみに胸が張り裂けそうになる。 (二人の気持ち? イースの気持ち? イースはかつての私のはず、他人として何かを感じているというの?) 「こんなはずじゃ……。こんなはずじゃなかった!」 “国民番号ES4039781イース様。あなたの寿命は今日限りです。 お疲れ様でした” 間近に迫る死を前に、嘆きと悲しみ、そして悔しさを拳に込めて振るうイース。 その姿は、まるでピーチに泣きついている子供のようでもあった。 実際に泣いているのはピーチだった。イースの苦しみを感じ取り、自分の悲しみに変えて泣いていた。 そんなピーチの悲しみを感じ取り、美希と祈里も泣いていた。 (そうだったの……知らなかった。みんな泣いていたのね) 笑顔と幸せが輪になって広がっていくように、悲しみと不幸もまた輪となって広がっていく。 (だから――――私はいつも周りを不幸にしてしまう) 「お前といると、私の中の何かがおかしくなっていく。お前といると、私が私でなくなっていく!」 「せつなっ!」 「初めて会ったあの日、幸せが訪れるなどとデタラメな占いを真に受けては喜び、その後も些細なことで幸せを手に入れたと言ってははしゃぎ、 罠にかけようとしているのに微塵も疑うそぶりも見せず、いつもいつもバカみたいに笑ってる。 そんなお前が……お前が――――! うらやましいと思った!」 “魂の叫び” 死を前にして自分の気持ちと向かい合う。これほど純粋な想いが他にあるだろうか? うらやましい―――― その言葉には一切の希望がなく、祈る余地もなく、ただ、届かぬものに対する憧れだけがあった。 互いの想いの全てを込めた、イースとピーチの渾身の一撃が空中で交差する。 眩い閃光の後、力を使い切った両者は地表へと落下する。 「うらやましいと……思ったんだ」 「そっか、よかった。やっぱりイースじゃない、せつなだったんだね」 穏やかな表情、素直な気持ち。やり残したことを終えたイースの、本当の素顔がそこにあった。 「変ね。あれだけ激しく戦ったのに、心が清清しい」 「それはね、ラブの心が伝わったからよ。ラブはね、ラビリンスからせつなを取り戻そうとして、心を鬼にして全力で戦ったの」 「心を、鬼にして……」 「あたしも、悩んでた気持ちがすっきりしたよ。せつなの心が伝わったから」 「ほら、立てる?」 「フン、私の心など……。あっ……あれは――――幸せの素?」 「すごいよ! せつな。幸せを運ぶ四つ葉のクローバーはね、心から幸せを望んでいる人じゃないと見つけられないんだよ」 「心から幸せを?」 「今からでも、きっとやり直せるよ。さっ、幸せをつかみとって。せつなが見つけた幸せでしょ? ほらっ!」 それは、イースの境遇を知らないからこそ言えた言葉。 やり直せない――――もう、間に合わない。だからこそ、会いに来たのだから……。 それでも、イースは手を伸ばそうとした。 そう――――届かないなんて、叶わないなんて、許されないなんて。 そんなこと、夢を見ない理由にはならない。見れない理由になんてならないんだ! “時間です” 「せつな……どうしたの?」 「えっ?」 「なっ、何?」 「どうしたんや、急に?」 後、数センチ。もう少しで四つ葉のクローバーに手が届こうというその時、イースの身体が崩れ落ちる。 苦しみも、痛みも感じることなく。まるで、糸の切れた人形のように―――― そこで時間が止まる。 ピーチも、美希も、祈里も、タルトやシフォンまでも。 森の木々や風や雨までも、その全てが動きを止める。 せつなは駆け寄る。 うつ伏せに倒れたイースの身体を、触れないと知りつつも抱き起こそうと手を伸ばす。 (えっ? どうして……) 先ほどはすり抜けた彼女の身体に、何故か触れることができた。 まだ、ぬくもりが残るイースの身体を抱き上げる。 (くっ……。っぅ――――――――!!) 泥に汚れた銀色の髪をかき分け。せつなはイースの顔を覗き込む。 ゾクリと感じる恐怖と嫌悪。雷が落ちたかのような衝撃に襲われ、せつなは声にならない悲鳴を上げる。 安らかとは言い難い死に顔は、まさに彼女の人生そのものだった。 恐怖を感じる暇もなく、後悔する時間も与えられず、ただ一欠けらの幸せも手にすることなく。 何の感情も浮かべずに、瞳孔の開いた瞳をいっぱいに広げて―――― ポタリ、ポタリ―――― 雨は止んでいるはずなのに、イースの顔が濡れていく。 次々にこぼれ落ちる雫は、泥に汚れた少女の顔を少しづつ綺麗に洗い流していく。 それが自分の涙なのだと気が付くまで、せつなはしばらくの時間を必要とした。 (どうして、泣いているの? 知ってること、過去にあったことなのに) ただ、無性に悲しかった。せめて、幸せの素をつかむ時間を与えてあげたかった。 一度でいいから、笑顔になれる時間を与えてあげたかった。 幸せの喜びを、教えてあげたかった……。 生きる資格なんてないと思った。まして、プリキュアになるなんて―――― 自分は、幸せになってはいけないような気がした。 それなのに、今、確かにイースを救いたいと思った。幸せになってほしいと願った。 (そうだったのね……。やっとわかったわ、自分は自分では見えないものね) 「許せない過去の私を、イースを、救うべき他人として見せるためにここに呼んだんでしょ? アカルン!」 その言葉に反応するかのように、景色が再び変転する。 腕の中からイースの重さがなくなり、やがて実体を失った。 ピーチも、美希も、祈里も、タルトやシフォンも。みんな透き通るようにして姿を消していく。 薄暗い雨空は、日の沈む前の紅い夕焼けに変わる。 深緑の森の木々は、赤と黄色の、美しい紅葉へと戻っていく。 そして、せつなの前に姿を現す懐かしい姿。プリキュアの妖精。幸せの赤いカギ、アカルン。 リンクルンを返却し、スウィーツ王国に戻ったはずの、東せつなのパートナーだった。 「久しぶりね。どうしてあなたがここに?」 「キ――――」 「そう、そうだったわね。私とアカルンは繋がっている。あなたの力で生きていられるのだから」 「キ――――」 「ええ、もうわかったわ。やっと、全部わかったの。あなたのおかげよ」 罪を感じること。反省し、後悔するのは大切なこと。生き方を改めて償うのは必要なこと。 だけど、自分を傷つけて、その幸せを認めないのは間違ったことなんだ。 自分を傷つけて罪の意識を和らげたって、そんなんじゃ誰も救われない。 今、自分がイースの不幸を悲しく思ったように。 東せつなを愛してくれた人たちだって、その不幸を悲しまないはずがないのだから。 「ラブのように自分から笑えなきゃ、誰も幸せにはできないのよね」 もう一つ、わかったことがある。 “そっか、よかった。やっぱりイースじゃない、せつなだったんだね” ピーチの言葉を思い出す。ピーチは、ラブは、最後までイースをせつなと呼び続けた。 東せつななんて、この世界に潜入するために自分で付けた名前。だから、そんな子は始めからいなかったんだって思っていた。 「せつなは居たのよね、ラブの中に。私を一番最初に愛してくれた人の心の中に」 そして、あゆみと圭太郎。美希や祈里。クラスのみんなや商店街の人たち。 せつなを知り、その名を親しみを込めて呼んでくれる全ての人たちの中に。 愛を込めて付けられた名前じゃなくても、愛された名前となり、愛される人として居場所を得たんだって。 「キ――――」 「帰る時間なのね。ありがとう、アカルン。私はもう大丈夫よ」 アカルンは一瞬微笑むと、空高く上昇して消え去った。せつなはその姿を記憶に焼き付けて、アカルンの消えた赤い空に誓う。 幸せの妖精に選ばれた者として、恥ずかしくない生き方をしようと。 そのためには―――― “幸せを運ぶ四つ葉のクローバーはね、心から幸せを望んでいる人じゃないと見つけられないんだよ” あの時、イースがつかめなかった幸せの素。キュアパッションが受け取るのを拒んだ四つ葉のクローバー。 もう一度探して――――そして、自分の手で摘み取ってみよう。 そこから始めようと思った。 夕焼けの薄暗い森の中、せつなは目を凝らして四つ葉のクローバーを探し始めた。 陽が沈み、森は深い闇に包まれる。あれからずいぶん時間が経っていた。 木々の間から覗く星の光だけを頼りに、せつなは四つ葉のクローバーを探し続ける。 (必ず見つける。そして――――帰るんだ!) どうしても、今、ここで見つけたかった。 ここはイースの最期の場所。そして、東せつなの生まれた場所なのだから。 “そんなお前が……お前が――――! うらやましいと思った!” やっと、見つけたから……。自分だけの夢――――自分の幸せのために見る夢を。 せつなじゃない、イースが見ていたんだ。その人生の最期に、届かぬ夢として、それでも叶えたい願いとして。 (どうして、もっと早く気が付かなかったんだろう) さっき、アカルンが見せてくれた過去。あれと同じことを、アカルンは前にもやってくれていたのだ。 それは、キュアパッションに生まれ変わる時。東せつなの心の中で。 公園でダンスに励むラブたちを、寂しそうに見つめる自分。ダンス大会の夢に挑むラブたちを、辛そうに見ている自分。 本当の自分の願い――――本当の自分の夢を。 決して見えないはずの自分の姿を、アカルンは見せてくれていたのに。 “なりたい自分を思い描いて、その目標を実現させる”それが夢なのだとしたら、自分がなりたいものなんて決まってる! (ラブがミユキさんに憧れたように、私はラブになりたい。ラブの輪の中に入って、その幸せを一緒に広げていきたい!) それこそが自分の夢。イースが、その恵まれない人生の最期に見た、本当の自分の夢だった。 「やっと、見つけた。あなたの夢は私が叶えてみせるから。お帰りなさい――――イース」 せつなは大切そうに四つ葉のクローバーを摘み取る。今度こそ、自分の幸せのために。 そして、背後から近寄る気配に振り返る。この良すぎるタイミングも、運命なのかもしれなかった。 「せつな、探したよ」 「ラブ、私――――自分の夢が見つかったの」 せつなは手にした四つ葉のクローバーをラブに見せる。これは、“心から幸せを望んでいる人じゃないと見つけられない”もの。 だから、イースには見つけられたもの。そして今、イースから受け継いだもの。 「“幸せ”に、みんなの幸せと自分の幸せがあるように、“夢”にも、みんなのための夢と自分のための夢があるのね」 「うん、そうだね」 「私もラブのようになりたい。二兎を追って、両方ゲットしたい。ううん――――必ずしてみせるわ!」 それは一年前、ラブがせつなに誓った決意。せつなが自分の言葉に置き換えて、言い直したものだった。 「ねえ、せつな。せつなの幸せは何? せつなの夢を聞かせて」 「私はラブのようになりたい。ラブのように笑って、同じ夢を叶えたい」 「あたしの夢? ダンサーの夢のこと?」 「ええ、私はプロのダンサーになる。ダンスで、みんなを笑顔と幸せでいっぱいにしてみせる」 「ダンスで、ラビリンスを幸せにするの?」 「世界中のみんなを、よ!」 「そっか。なら、せつなの夢はあたしの夢と一緒だね!」 「そうよ、私はラブのようになりたいんだから」 “いつか世界中のみんなの心を、愛情いっぱいにしてあげられる人になりたい” それが、ラブの名前の由来。そして、ラブがおじいちゃんの写真の前で語った夢だった。 「もう一度作ろうよ! あたしたち二人で、ダンスユニット“クローバー”を」 「ええ!」 「待ちなさい! 二人じゃユニットにはならないでしょ」 「わたしたち四人でクローバーじゃなかったの? ラブちゃん、せつなちゃん」 「美希たん! ブッキー!」 美希と祈里が木陰から姿を現し、そのまま会話に加わる。 ラブより少しだけ遅れてここに来ていたのだが、お話し中だったので様子を見守ることにしたのだ。 「ダメよ! 美希にはモデルの夢があるじゃない。やっと叶ったんでしょ」 「まあ、ここまで来たんだもの。モデルに専念するのが最善の道なんでしょうね」 「だったら!」 「でも、アタシは完璧なの。bestではなくperfect。それは、何もあきらめないということよ!」 「わたしもあきらめない。自分の夢も、みんなと一緒に見る夢も」 「ブッキー!」 「美希ちゃんと話したことがあるの。せつなちゃんが本当にやりたいことを見つけて、それがダンスだったならって」 「そんな……どうして? ブッキーだって、獣医の夢があるじゃない!」 「うん、ダンス大会の前から迷ってた。わたしの夢は獣医だから、プロになりたいわけじゃなかったし」 「浮かない顔してたことあったよね、あたしも気になってたんだ……」 「わたしね、引っ込み思案を治したくてダンスを始めたつもりだった。だけど、本当はそうじゃなかったの」 ラブにダンスに誘われた時、祈里はみんなの前で踊るなんて自分にはできないと断った。 それなのに、毎日のようにラブと美希のダンスの練習を盗み見ていた。 胸が締め付けられるような憧れと、羨望と、そして悔しさ。それもまた、自分の夢だったんじゃないかって。 「逆だったの。ダンスがしたいのに言い出せなかった性格を治したかった。わたしも、ダンスが好きなんだって!」 「本当にいいの? ブッキー」 「うん。歌って踊れる獣医さん、全然ありだって言ったのラブちゃんだよね?」 ラブ、美希、祈里、せつな。四人の視線が交わる先に、それぞれの腕を真っ直ぐに突き出して掌を重ねる。 「ダンスユニット“クローバー”再結成だね。みんなの幸せも、あたしたちの幸せも、まとめて両方ゲットだよ!」 「当然でしょ! アタシたちは完璧だもの」 「きっと叶うって、わたし信じてる」 「私、精一杯がんばるわ!」 今度こそ、せつなは心に誓う。この手のクローバーが、自分の幸せを運んでくれるように、 ダンスユニット“クローバー”を、みんなの幸せの素にしようって。 「さっ、そろそろ帰りましょう。いくらアタシのママが奔放でも、この時間じゃね」 「わたしも連絡はしてあるけど、さすがに心配してると思う」 「そうだね。帰ろう、せつな。あたしたちの家に」 「そうね、私たちを心配してくれる人のところへ」 帰り際に、せつなは今日あったことをラブと美希と祈里に話した。 「アタシたち、アカルンに先を越されちゃったわけね」 「どういうこと?」 「ううん、なんでもないの」 「でもいいな~、あたしもピルンやシフォンやタルトに会いたいよ」 「アカルンちゃんは瞬間移動があるもの」 「もともと、自由気ままな子だったしね……」 昨年の夏のあの日のこと。アカルンと再会したってこと。懐かしい思い出に、会話を弾ませながら。 ラブとせつなが家に帰り着いたのは、日付も変わろうとする時刻だった。 あゆみと圭太郎が心配して玄関に飛び出してくる。 安堵と喜びの表情を浮かべたあゆみが、やがてうつむいて震えだす。その手はギュっと握られていて―――― 直感で危険を察して、一歩下がるラブ。せつなはキョトンとその様子を眺める。 「せっちゃん、こんなに遅くまで、一言も無しにどこに行ってたの?」 「ただいま、おかあさん。あのね……」 「勝手にいなくなって、遅くなってごめんなさい」 玄関で頭を下げるせつなに、険しい表情のあゆみがツカツカと歩み寄る。 そして、大きく手を振り上げた。 パァァ――ン 少し離れて様子を見守っていた圭太郎がびっくりするほどの、大きな音が深夜の桃園家に響き渡る。 “平手打ち”ラブですら、ここまで強く打たれたことはないかもしれない。そのくらいに強烈な愛の鞭だった。 「せっちゃん、覚えておきなさい。親に心配かける子は、こうやって叱られるのよ」 頬に走る衝撃よりも、混乱の方がずっと大きかった。一体何が起きたのか、しばらく理解できなかった。 ようやく事態が飲み込めて、せつなは恐る恐る口を開く。 「おかあさん……。一つ教えて」 「なあに?」 「ラブは、心配してもらえるのは幸せだって言ってた。でも、心配するのは幸せなことなの?」 「心配するのは幸せじゃないけど、心配な人がいるのは幸せなことでしょ。だから、ほどほどにしなさいね」 「はい……。ごめんなさい――――おかあさん!」 せつなはあゆみの胸に自分から飛び込んだ。そして、身体を震わせて泣いた。 ごめんなさいと、ありがとうを繰り返しながら。 まるで――――小さな子供のように。 それは、今まで厳しく律していたせつなの心の開放だった。 ラブの幸せを分けてもらっていたんじゃない。ラブに憧れたせつなが手に入れた、本当の自分の幸せなんだって。 頬の痛みが、髪を優しく撫でる手の動きが、確かにそう教えてくれていた。 せつなは部屋に戻って異空間通信機を起動させた。ウエスターとサウラーに今日の出来事を話し、やっぱり戻れないと伝える。 この世界で、叶えたい夢を見つけたから。 いつか、自分自身とラビリンスを含めて、 世界中のみんなを、笑顔と幸せでいっぱいにしたいから―――― 新-270へ
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未来への証(後編) 穏やかな日差しが、四つ葉町公園に降り注ぐ。ドーナツ・ワゴンの中では、カオルちゃんがお客さんが来るのを待ちわびて、くわぁっ、と大きな欠伸をした。それにつられそうになって、慌ててゴホンと咳払いをしてから、隼人はドーナツの仕込みの続きに取り掛かる。 瞬は、ドーナツ・カフェの椅子に座って、やはり眠そうな顔で紅茶を飲んでいた。実は、さっきから何度もカオルちゃんの目を盗んで角砂糖をゲットしようと試みているのだが、どうやらまだ成功していないらしい。 昨夜――というより今朝の話だが、彼らが御子柴邸を後にしたのは、もう東の空が白み始めた頃だった。 四体のピックルンはスウィーツ王国へと戻り、再びただの少女となったラブたちを家まで送り届けてから、ウエスターとサウラー――隼人と瞬は、さっきカオルちゃんがやって来るまで、ここで死んだように眠っていたのだ。 「しかし・・・元気だなぁ、あいつらは。」 隼人が、もう一度欠伸をかみ殺してから、向こうに見える石造りのステージに目をやる。そこにはお揃いのダンスの練習着に身を包んだ少女たちが、準備運動をしながら、師匠のミユキが来るのを待っていた。どうやら今日は、ダンスレッスンの約束の日だったらしい。 「ああ。仲間たちと過ごす時間となると、それだけエネルギーが湧いてくるということだろう。」 「・・・お前の台詞にしては、熱いな。」 いつものように淡々と発せられた、でも皮肉の匂いがカケラも感じられない瞬の台詞に、隼人が怪訝そうな顔になる。が、すぐに真面目な顔つきになると、カオルちゃんが近くに居ないのを見定めてから、もう一度瞬に呼びかけた。 「なぁ、瞬。今回のイースの希望は、ラビリンスにとっても良いことだよな?だったら、きっと許可は下りるよな?」 「もっともらしく言っているが・・・要は、君はせつなの希望が通ればそれでいいんだろう?」 今度は皮肉めいた調子でそう言ってから、瞬も真面目な顔つきになる。 「おそらく大丈夫だと思うよ。彼女には大きな実績があるしね。それに、すぐには無理だろうが、いずれきちんと異世界との交流が出来ないか検討して、政府に提言してみる価値はあると思っているんだ。 僕たちは、科学技術の面では進んでいるようだが、長い間メビウスに支配されていた分、遅れている分野が数多い。それに、異世界に興味を持っているラビリンスの人間も、ラビリンスの技術を生かそうと考えてくれる異世界の人間も、ちゃんと居るみたいだからね。 まあそのためには、難しい問題を色々とクリアしなければならないと思うが。」 瞬はそう言って、膝の上に置いたガラスの筒に――ノーザが博士に渡し、数多くの異世界製のナケワメーケを生み出し、そして最後はホホエミーナとなってスウィーツ王国へと飛んだ、あのダイヤが封入された容器に、そっと手を触れた。 博士の今後がどうなるのか、瞬にはわからない。この世界では、ラビリンスのように失敗したら寿命を断たれるようなことは無いが、やはり責任というものは存在する。 だが、別れ際の博士の表情は穏やかだった。 過ちを犯し、苦しみはしたが、北教授にあの“核”を託されたこと自体を後悔はしていない。いつになるかはわからないが、いつか必ず、この経験をこの世界の科学技術に活かしてみせる――そう言って握手を求めて来た博士の手を、瞬は――サウラーは、震える手で握り返すのが精一杯だった。 「まあ、お前がそこまで言うんだから、全力で実現させる気なんだろう?」 隼人があっけらかんとそう言って、ニヤリと笑う。その時、フライヤーの様子を見ていたカオルちゃんがやって来て、隼人の手元を覗き込んだ。 「うんうん。なかなかいい感じになって来たね。まだ売り物ってわけにはいかないけど、お嬢ちゃんたちに食べてもらったら?今日、パーティーがあるんだろ?」 「ホントかっ?師匠!」 途端にぱあっと明るくなる隼人の表情。それを横目で眺めながら、瞬は、実に楽しそうな顔で、ふん、と鼻で笑った。 イエローハートの証明 ( 第14話:未来への証(後編) ) 「この間の返事なら、急ぐことはないわよ。まだ時間はたっぷりあるんだし。」 「はい。でも、今のあたしたちの気持ちを聞いてもらいたいんです。ミユキさんに、相談したいこともあるし。」 お願いします、とラブが頭を下げるのとほぼ同時に、残りの三人も一斉に頭を下げる。それを見て、ミユキはふっと頬を緩めた。 ラブたち三人に大きな宿題を出してから、初めてのダンスレッスン。その場にせつなが現れたのには驚いたが、同時にミユキは、それが何だか嬉しくもあった。やっぱり四人のこれからについては、全員の口から聞く方がいいに決まっている。 「わかったわ。わたしはあなたたちのコーチなんだから、相談でも悩みでも、何でも言って。」 そう言って、ミユキがステージの石段に腰かける。その周りを囲むように、少女たちもその場に陣取った。 「みんなで話し合ったんですけど、やっぱりクローバーは、四人でクローバーなんです。誰か一人欠けても、クローバーじゃありません。」 「そう。よくわかるわ。」 ラブの言葉に、ミユキが小さく頷く。 「そして、あたしたちはやっぱりクローバーでダンスをやりたい。だから、これからも四人でダンスをやっていきたいと思います。」 「それは、具体的にどうやっていくつもりなの?」 ミユキが厳しい顔つきで、さらに畳みかける。言葉だけを聞けば、確かにそれは、プロデビューを断ってからラブたちがずっと言い続けてきた言葉と大差なかったからだ。 その問いに答えたのはラブではなく、せつなの静かな声だった。 「そのことで、ミユキさんにご相談したいことがあるんです。 普段は自主練習をして、月に一度・・・もしかしたら二カ月に一度の時もあるかもしれませんが、それくらいの頻度で、みんなと一緒に、レベルを落とさずにレッスンが受けられるような・・・そんな練習プランを組んで頂くのは、難しいでしょうか。」 「せつなちゃん、あなた・・・一カ月か二カ月に一度は、四つ葉町に帰って来られるの?」 ミユキが、少し驚いた様子で目をパチパチさせながら、せつなの顔を見つめる。 「はい。勿論、これから向こうに戻って、関係者と相談しなくちゃいけませんけど。でも、これからは時間の許す限り、なるべく四つ葉町に帰って来ようと思っています。」 口元に穏やかな笑みを浮かべ、静かに、しかしハッキリと、せつなは答えた。 四つ葉町の人たちのように、ラビリンスを笑顔でいっぱいにしたい――そう思って、ラビリンスに帰還した。でも、四つ葉町で学んだ「幸せ」という感情を、その素晴らしさを伝えたいと思っても、上手く伝えられないもどかしさを、ずっと感じていた。 (伝えられないはずよね。自分の幸せが何かもわからないのに、幸せを伝えられるはずがないもの。それに、幸せは教えられて学ぶものじゃない。それぞれが経験して、その気持ちを感じることによって、知っていくこと。だから、何をすれば幸せになれるだなんて、そんな模範解答は無いのよね。) どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう、と自分でも可笑しくなる。しかもそれを教えてくれたのが、四つ葉町の人たちだけでなく、ウエスターとサウラー、それに過去の呪縛の象徴のように現れたナケワメーケだったなんて・・・そう思うと、ほろ苦いような、何だかくすぐったいような気持ちがする。 せつなの答えを真剣な面持ちで聞いてから、ミユキは、オッケー!といつもの力強い調子で言った。 「そういうことなら、お安い御用よ。ブランクを取り戻すのが少し大変かもしれないけど、それも考えて練習プランを組んでみるわ。」 「ありがとうございます!」 パッと表情を明るくするせつなに、今度はミユキが少し心配そうな顔になる。 「でも、せつなちゃん忙しいんでしょう?まぁそれは、美希ちゃんや祈里ちゃんもそうだけど・・・。その点は、大丈夫なの?」 「あ、それについては、すっごくいいアイデアが見つかったんです。」 今度はラブが、何だか得意げな表情で、ミユキと向かい合う。 「せつながこっちで過ごす分、あたしが時々はラビリンスに行って、せつなの手伝いをしよう、って思ってるんです!」 「え、そんなことも出来るの?」 「あ、あの・・・一応、それも関係者と相談してから、なんですけど。」 明るく言い放ったラブの言葉を、慌てて補足するせつなの頬が、照れ臭そうに朱に染まっている。それを微笑みながら見つめてから、美希はラブに向かってふくれっ面をして見せた。 「こら、ラブ!あたしが、じゃなくて、あたしたちが、でしょう?アタシだって、たまにはせつなの手伝いがしたいわよ。」 「わたしも!」 祈里も美希の隣りから、笑顔を覗かせる。 美希は祈里と目を合わせてから、ますます顔を赤くしているせつなにちらりと微笑みかけ、その目をミユキの方に向けた。 「アタシも、確かに忙しくはなりましたけど、やっぱりずっとみんなと繋がっていたいんです。ただ仲のいい友達っていう関係だけじゃなくて、何かを一緒にやり遂げる、仲間でいたい。それに勿論、ダンスもずっと続けたいですから。」 「わたしも、美希ちゃんと同じです。」 祈里もミユキを見上げてから、こちらは少し、顔を俯かせた。 「ホントはわたし、ちょっと迷ってたんです。この一年で、ダンスが大好きになったけど、わたしの将来の夢は獣医になることで、プロになりたいわけじゃない。それなのに、プロのダンサーを目指しているラブちゃんたちと一緒に練習していていいのかなぁって。」 「確かに、最近の祈里ちゃんのダンスには、迷いがあったわね。」 ミユキにストレートに指摘されて、祈里が、ごめんなさい、と小さく頭を下げる。 「でも、わたしはやっぱり、ラブちゃんや美希ちゃんやせつなちゃんと一緒に、ダンスをする時間を大切にしたい。改めて、そう思ったんです。 慣れてしまうと、ついそこにあるのが当たり前だと思ってしまうけど、大切な人たちと過ごす時間や、紡がれた絆がどんなにかけがえのないものか、今回のことでよくわかったから。大切な仲間たちと、大好きなダンスをする時間って、なおさらそうだと思ったんです。」 ラブが、優しい光を宿した目で祈里を見つめてから、その目を美希とせつなに移す。そして仲間たちを代表するように、ぴんと背筋を伸ばした。 「これが、今のあたしたちの気持ちです。 クローバータウン・フェスティバルのお話は・・・ごめんなさい、せっかくですけど、まずはまた四人で息の合ったダンスが出来るようになることを、目標にしたいです。」 まっすぐに心の内を語る教え子たちの顔を、ミユキもまっすぐに見つめて、じっと耳を傾ける。そして全員の話が終わると、いつもの強い視線で一人一人の目を見つめてから、花がほころぶように、優しい笑顔になった。 「みんなの気持ち、よくわかったわ。真剣に考えてくれて、とても嬉しかった。 じゃあ、わたしも全力でクローバーの再開をバックアップしなくちゃね!」 「ありがとうございます!!!!」 緊張から解き放たれて、一斉に笑顔になる四人。だが、ミユキが不思議そうに発した次の言葉に、今度は一斉に、ギクリと首を縮めた。 「ところで、祈里ちゃんが言ってた『今回のこと』って何のこと?それに、せつなちゃんはともかく、隼人さんや瞬さんまで戻って来るなんて・・・。」 「ちょっ・・・ちょっとブッキー!」 「ごめ~ん。わたし、そんなこと言ったかなぁ。」 「そ、そうだっ!」 美希と祈里がぼそぼそと囁き合うのを隠すように、ラブが突然、せつなの腕を引っ張って、ガバッと立ち上がった。 「今日、うちでラザニア・パーティーやるんです。あたしとせつなが、お母さんに教えてもらうことになってて。ねっ、せつな。」 「え、ええ!もし良かったら、ミユキさんも来て頂けませんか?」 「へぇ、楽しそうねえ。オッケー!じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。」 ミユキが、もうさっきの素朴な疑問など忘れたように、嬉しそうに頷いたのを見て、ラブとせつながほぉっと安堵のため息をつく。その時。 「姉ちゃん。ちょっと邪魔していいか?」 何故かステージ横の林の中という不自然な場所から現れたのは、大輔と裕喜だった。 「ほら!健人、来いよ!」 裕喜が物陰に隠れているらしい健人の手を引っ張って、大輔が、ドン、とその背中を押す。 「わ、わぁ~!」 四人の前に押し出される格好となった健人は、そこで覚悟を決めたように、勢いよく頭を下げた。 「皆さん、このたびは・・・本当にすみませんでしたっ!」 「健人君、もう体は大丈夫なの?」 祈里の問いに顔を上げた健人が、少々バツが悪そうに、黒縁の眼鏡を押し上げる。 「は、はい。僕も、それに・・・眼鏡も、お蔭様で元通りです。」 「良かった。」 祈里が嬉しそうに微笑んだとき、今度は横合いから大輔と裕喜が現れて、健人を四人の前から連れ去った。 「じゃあな。俺たち、これから行くところがあるんだ。健人がどうしてもラブたちに謝りたいって言うから、連れて来ただけだからさ。」 「大輔!健人君と、仲直り出来たんだねっ!」 そのまま立ち去ろうとした大輔が、ラブに満面の笑みを向けられて、照れ臭そうにあさっての方を向く。 「い、いやぁ、その・・・ちょっとこれから忙しくなるから、喧嘩なんかしてらんねえんだ。」 「忙しくなるって?」 「聞いて驚くなよ?俺たち三色団子が、クローバータウン・フェスティバルに出場することになったんだ!」 「すごーい!」 「まさか、ダンスで?」 「良かったじゃん!」 目を丸くする祈里。怪訝そうな美希。素直に祝福するラブ。そして黙って成り行きを見守るせつな。だが。 「ちょっとあんたたち。誰がクローバータウン・フェスティバルに出るですって?」 一段と低く、その分不気味な響きを持った声に、関係ない四人までもがビクリとして振り返った。 ミユキが、いつの間にかステージの中央に仁王立ちして、大輔たちを睨み付けている。 「え・・・だって姉ちゃん、商店街のお祭りに出てくれって・・・」 「あれは、来週から始まる商店街の福引で、着ぐるみを着て子供たちに風船を配って欲しいって、そういう話よっ!」 途端に三人が、え~っ、と不満そうな声を上げた。 「嘘だろ、着ぐるみかよ!」 「大輔君、話が違うじゃないですか!」 「えーっ!姉ちゃん、ダンスじゃないのかよ!」 「何言ってんの。あれからまともに練習すらしてないくせに、クローバータウン・フェスティバルが聞いて呆れるわ。いい?あんたたちには、百年早いわよ~っ!」 凄みを帯びた声でビシッと指をさされ、三人が、今更ながら浮足立つ。 「し、失礼しました!!」 「わっ、ま、待てよ!裕喜!健人!」 一目散に逃げ出す裕喜と健人を、大輔が慌てて追いかけた。 ラブが、プッと吹き出して、目を丸くして見ていたせつなの肩にもたれかかる。 「おかしいと思ったのよね。」 「美希ちゃん、ヒドい。」 呆れたように呟く美希も、冗談めかしてたしなめる祈里も、途中からクスクスと笑っている。 「もう!あんな勢いで逃げることないじゃないの。」 「え~!?だ、だって、ミユキさん!」 不満そうに口を尖らせるミユキの意外な言葉に、ラブが、アハハ・・・とお腹を抱えて笑い転げる。その笑いはすぐに仲間たちに伝染し、ついにはミユキも、可笑しそうに笑いだした。 「あ~あ、ダンシング・ボーイズ。今じゃすっかり、ランニング・ボーイズだね~。」 ニヤニヤしながら一部始終を見ていたカオルちゃんが、そう言って、グハッ!と天を仰いだ。 ☆ ひとしきり笑った後、四人の少女はステージの中央に立った。せっかくだから、まずは久しぶりに四人で一曲踊ってみたら?とミユキが提案したのだ。 曲は、四人が一番踊り慣れた曲。もう何百回、何千回と踊った、ダンス大会のあの曲だ。 立ち位置は、右から、美希、せつな、ラブ、そして祈里。この順番は、四つ葉のクローバーを結成した時から変わらない。 美希は、相変わらず優美な立ち姿で、誰も居ない客席を見渡している。 せつなは、ぐうっと伸びをして、今朝の体の調子を確認している。 ラブは、目をキラキラさせて、仲間たち一人一人を見回している。 そんな何気ない仕草が、あの頃とちっとも変っていない――そんな些細なことが、祈里には何だか嬉しかった。 (当たり前よね、まだ半年も経っていないんだもの。でも、これからみんな、それぞれの時間を過ごして、それぞれの経験をして・・・。落ち込んだり、傷付いたり、時には仲間同士、喧嘩することだってあるかもしれない。変わっていくところだって、あるかもしれない。) 祈里は、もう手袋も何もつけていない左手を目の前にかざして、中指の傷を眺めた。 今はもう塞がっている傷跡。もっと時間が経てば、傷跡も消えて、後には何も残らないだろう。 (でも、今回のこと、わたしは決して忘れない。わたしたちは遠い先の未来でも、いつもお互いを思いやって、きっと幸せな時間を過ごしてる。そんな幸せな未来を作っていけるって、わたし、信じてる。) ダンシング・ポットが、軽快な音楽を響かせ始める。 一心に耳を傾け、最初のステップへ向けてカウントを取る少女たちの頭上を、五月の風が爽やかに吹き抜けた。 ~完~
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第28話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。初夢の夢占い――』 大晦日の深夜、そして、一年の始まりの日。 ラブとせつな、あゆみと圭太郎が、元日詣を済ませて帰宅した。 肌を刺すような寒さの外出でも、二人の子供は元気いっぱいだった。飛び込むように家の中に入る。 「お疲れさま。ラブ、せっちゃん」 「いやぁ、寒かったなあ……。大丈夫か? 二人とも」 「平気だよ! 子供は風の子ってね、へくちん!」 「クスッ、風邪の子になっちゃいそうね。待ってて、温かい飲み物用意するから」 せつなはキッチンに駆け寄って、手際よく鍋に火をかけ、お湯を沸かす。 圭太郎とあゆみには紅茶を、ラブと自分にはホットミルクを用意する。 勝手知ったる自分の家。すっかり、四人で過ごすことが当たり前になっていた。 せっせと動き回るせつなを、三人は幸せそうに眺めた。 湯気の立ち上るカップを手にして、それぞれ体を温める。 「おみくじ、ラブは大吉だったのよね」 「うん、今年も幸せゲットだよ」 「せっちゃんは凶だったんだろう? 気をつけないとな」 「大丈夫よ、おとうさん。今以上の幸せなんて想像もできないもの。ちょっと悪いくらいでいいの」 「せめて、今夜はいい夢を見ようね!」 「夢って?」 ミルクを飲みながら説明してもらう。 新年の最初に見る夢、それを初夢と呼ぶらしい。その夢の内容によって、どんな一年になるのかを占うのだと言う。 占い師だった自分が、知らないのは恥ずかしいと思った。夢占いなんて専門外もいいところだけど……。 「一富士(いちふじ)、二鷹(にたか)、三茄子(さんなすび)がいいと言われてるのよ」 あゆみが補足してくれる。 富士って登山の夢でも見るのだろうか? 鷹ならわかる。大空を飛ぶ夢なら爽快だろう。茄子? 嫌いではないけど、夢に見るほど美味しいわけでもない。 「それじゃあ、もう遅いからみんな休みましょう」 「ラブ、せっちゃん、良い夢を」 「「おやすみなさ~い」」 ラブとも別れて、自分の部屋のベッドに潜り込む。 初夢の話を思い出す。悪夢にうなされていたのは随分前の話だ。幸せな毎日を過ごす内に、いつの間にか悪い夢は見なくなっていた。 まして、今夜は最高に楽しい夜だった。きっといい夢が見られるに違いない。安心して眠りの中に沈んでいった。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。初夢の夢占い――』 まぶしい光。暖かな日差しが、半開きのカーテンから入り込む。 朝というには、やや遅い時間。昨晩寝たのは深夜遅くだから仕方ないけど、新年初日から寝坊はだらしないと反省する。 結局、夢は見られなかった。それも当然かもしれない、普段だって見ない日のほうが多いのだから。 新年で最初に見る夢が初夢なのだから、今夜か明日の夜にでも見ればいいだけだと思うことにした。 着替えようと鏡の前に立って――凍りついた。 そこに映る姿は―― 光り輝く銀色の髪。闇の色で体を覆うボンテージ風の闘衣。 まごうことなき――ラビリンスの四大幹部の一人。イースの姿だった。 久しぶりに全身を駆け巡る、人を超えた圧倒的な力の波動。確かに――本物だ。 寝ぼけてスイッチオーバーでもしたのだろうか? しかし、今は力を封印しているし、白ではなく黒衣なのも説明が付かない。 落ち着いて深呼吸する。原因を考えるのは後だ、とにかく早く戻らなくてはならない。 “スイッチ・オーバー” 掛け声と共に、両手を胸の中心で合わせる。そして――開く! しかし、元のせつなの姿には……戻らなかった。 (一体、どうして……。何が起こったというの?) 原因をあれこれ考えるが、何も思い至らなかった。強いて言えば、昨日引いたおみくじ。災いの訪れを予兆する凶の運勢。 馬鹿馬鹿しいと思った。占いは予知ではない。可能性の一つを受け止めることで、気運を高めるためのものだ。 これは事故。ならば、早く対処しなければならないと思った。 ラビリンス本国に連絡をとることにした。サウラーから預かった超空間通信機を起動させようとする。 しかし、故障でもしてるのか、電源すら入らなかった。 絶望で目の前が真っ暗になる。自分がイースであったことを知っているのは、ラブと美希とブッキーだけ。 他の人に見られたら大変なことになる。最悪の場合、もうこの家には……。いや、この世界には居られなくなるだろう。 そっと廊下に出て、ラブの部屋のドアをノックする。しかし、返事はない。 ごめんなさい。心の中で謝って、無断で部屋の中に上がりこむ。昨夜、就寝が遅かったのが祟っているのだろう、ラブはぐっすりと眠っていた。 「ラブ! 起きて! お願い、起きて!」 「ん~~、むにゃむにゃ……。あと五分寝かせて……。すやすや」 声をかけても、ゆすっても、さすっても、ラブは起きてくれない。イースはため息を付いた。 少し待とうかとも思ったが、そんな時間はなかった。 ラブとせつなの名を呼びながら、あゆみが階段を上がってくる。慌てて隠れようとも思ったが、すぐに無理だと気が付いた。 ここで押入れかどこかに身を隠したとしても、自分の部屋が空っぽなのを見たら、心配して部屋中を探すだろう。 見つかるわけには行かない――この家の平穏を壊したくない! イースは部屋の窓を開けて、屋根の上に躍り出た。周囲の視線に気を配りながら、人の居ない場所を目指して移動した。 身を隠す場所を求めて、イースは公園に来ていた。ダンスレッスンを繰り返した場所から、少しだけ離れたところ。 元旦の朝ということもあって、人はほとんどいなかった。 木陰にうずくまって一息つく。このままでは身動きが取れない。携帯でラブと美希と祈里に連絡を取ろうと試みた。 しかし――これも動作しなかった。 真っ暗な画面、電池を使い切ってしまったのだろう。リンクルンなら決して切れることがなかったのにと思う。 それも、言っても仕方のないことだ。 八方ふさがり、もはや打つ手も何もない。膝を抱えて体を丸める。 変身しているのだから、多少の気温の高い低いなんて関係がない。でも、酷く――寒いと感じた。 この世の中で、本当に一人ぼっちになったような気がして心細くなった。 ゆっくりと、ゆっくりと時間が流れる。 人の目を逃れ、人の気配を恐れ、どこにも行く当てのないまま徒に時間を費やしていく。 居場所がない。そんなの慣れっこなはずなのに、惨めで――悲しかった。 今までの温かい毎日は、本当は夢だったんじゃないか? そんな風に思えてくる。 時間はお昼を過ぎ、陽は高く昇る。 喉が渇いてヒリヒリと痛む。少しお腹も空いていた。普段なら一食や二食は平気だけど、変身中はエネルギーの消費が激しいのだ。 少し、眠ることにした。わずかでも力の消費を避けたいと思った。 「お姉ちゃん? 起きて、こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ」 「わん! わん! わん! わん」 「あなた……は? っ――タケシ君! それに、ラッキー!」 「どうして僕とラッキーの名前を知ってるの?」 「わん! わん! わん! わん」 イースは飛び起きて身を強張らせる。誰とも会いたくないのに、よりによって最悪の人に見つかってしまった。 凶の運勢は伊達じゃないわね、と自嘲する。 座り込んで寝ていたイースに視線を合わせるように、タケシ君が隣で屈みこむ。ラッキーは甘えるように頭を摺り寄せてくる。 その体温が、凍り付いていたイースの心を優しく溶かしていく。 「あなたこそ、わたしのことを知っているはずよ。私はイース、タケシ君とラッキーに酷いことをしたわ」 「そんなの、もう忘れちゃった。ラッキーも気にしてないみたいだよ」 「わん! わん! わん! わん」 じゃれついてくるラッキーに身を任せながら、タケシ君のお話を聞いた。 祈里お姉ちゃんから、ラビリンスの人たちは仕方なく戦っていたんだと聞かされたって。 この世界の人たちよりも、ずっとたくさんの幸せを奪われていた、気の毒な人たちなんだって。 ほんとうは、とてもいい人たちなんだって。 だから――途中から姿を見せなくなったイースのことも、心配してたんだって。 「お姉ちゃんは悪い人じゃないよ。ラッキーも無事だったし、僕だって……本気なら死んじゃってたよね?」 「私は……。――ごめんなさい」 何を言っていいかわからなくなって、イースはうつむいた。小さな体に秘められた大きな心に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。 「どうしたの? 大丈夫?」と覗き込むタケシ君をそっと抱きしめた。小さな声で、ごめんなさいって繰り返した。 クーっと、イースのお腹が鳴った。びっくりしてタケシ君から離れる。小さな音だけど、くっついていたからはっきりと聞こえたはず。 イースの真っ白な顔が赤く染まる。タケシ君が元気よく言った。 「お腹が空いてるの? 家に帰って何か持ってくるね!」 「わん! わん! わん! わん」 「待って! お家の人には!」 言い終わるのも待たずにタケシ君は走り去った。 そして、入れ違うように新たな人の気配を感じる。逃げようかとも思ったが、呼び止められた声に心当たりがあって思いとどまった。 いや――観念した。 その人はこの街で、イースから一番大きな被害を受けた人だった。 「イース? あなたはイースねっ! どうしてこんなところに」 「ミユキ――さん……」 恐る恐る振り返り、視線を合わせる。 ミユキの瞳に宿る感情は怒りではなくて、恐れでもなくて――戸惑い。 そして、次に宿る気持ちと紡がれる言葉は――安堵だった。 「良かった、無事だったのね」 「何が――良かったんですか?」 「ラブちゃんたち、ウエスターやサウラーは無事だって言うのに、イースのことを聞くと口をつぐむの」 だから、死んだものだとばかり思っていたって。 ミユキさんも、タケシ君と同じようにラブから説明を受けていたらしい。 寿命まで管理されて、他の選択肢がないような状態で忠誠を誓わされていたこと。 だからラブたちは、プリキュアは、ラビリンスを倒すためではなく、救うために戦ったんだってこと。 「それでも、やったことに変わりはないわ! どうして――そんな風に許せるんですか?」 「怒るより、憎むより、笑顔で手を取り合うほうがずっと素敵じゃない」 ミユキは続ける。それに悪いことばかりじゃなかったって。あの事件以来、街の人たちの結束は更に固くなったこと。 平和に暮らせることが、日常が平凡なことが、決して当たり前のことじゃないってわかったこと。 だから今の街の人たちの笑顔は、以前よりもずっと輝いているんだってこと。 ステージに立ち、大勢の笑顔と気持ちを受け止めている自分には、それがよくわかるんだって。 そして、ミユキは手を差し伸べる。イースが戸惑っていると、ニッコリと微笑みかけた。 「一緒にダンスをやらない? あなた、ダンスするたびに邪魔してたでしょ。本当は好きなんじゃないかって思ってたの」 「私は――!」 「お姉ちゃん! お待たせ!!」 イースがせつなであることを明かそうとする。その言葉を遮るようにタケシ君が戻ってきた。 一体何を持ってきたのか、大きなリックを背負っている。 「あれ? そっちのお姉ちゃんはテレビで見たことある。そうだっ! トリニティの!」 「ミユキよ。えっと……」 「この子はタケシ君と言います。ラブや祈里の知り合いです」 「そうなの。よろしくね、タケシ君」 「よろしく、ミユキお姉ちゃん。イースお姉ちゃんとは知り合いなの?」 「ええ、わたしのお友達なのよ」 「ミユキさん……」 タケシ君が持ってきてくれたシートの上に座って、ミユキさんと三人でまだあたたかいお餅を食べた。 一転して、軽いピクニックのような雰囲気となる。 甘い餡子が、疲れた体に優しく染み渡る。ポットに入った熱々のお茶が喉に嬉しい。 寒そうだからって、母親の上着を持ってきてくれた。これでいくらか人目を引かなくなるだろう。 ミユキさんに事情を説明しようかとも思ったが、タケシ君の前で詳しい話をするのも気が引けた。行く当てがないとだけ告げる。 「そうだったの。わたしの家は奴が居るし……。そうだ! テレビ局に行きましょう。あそこなら逆に目立たないわ」 「お願いします。そこで、もう少し詳しい話をします」 木を隠すには森の中。そこにはイースを始めとする、プリキュアショー用のラビリンス幹部の衣装まであった。 木陰を出て、まずは広場に向かう。借りた上着のおかげもあって、特に騒ぎにはならなかった。 広場から公園の出口に向かう。そこで、突然呼び止められた。 荒い呼吸、乱れた髪。薄着なのに額ににじんでいる汗。せつながおかあさんと慕う人物、あゆみであった。 「せっちゃん。あなた、せっちゃんでしょ!」 怒ったような険しい表情で、ズカズカと歩み寄ってくる。ミユキから借りた帽子を剥ぎ取って、イースの素顔を両手で挟み込む。 その表情がやがて泣き顔に変わる。そして、イースをぎゅっと抱きしめた。 「せっちゃんて? まさか、せつなちゃんなの?」 「せつな……お姉ちゃん? イースお姉ちゃんが?」 イースは戸惑った。確かに、両親にはラビリンス人であることは明かしている。でも、イースだと話したことはなかった。そこだけはボカしていた。 推理して見当をつけることができたとしても、ここまで確信するなんて……。 「おかあさん……。どうして?」 「ちょっと姿が変わったくらいで、親が自分の娘を見間違えたりするものですか!」 そして、新たに駆け寄る三人の姿。ラブ、美希、祈里だった。 「せつな、探したよ。黙っていなくなるんだもん、心配したよ?」 「せつな……その格好。まさか、またラビリンスに帰る気なんじゃ?」 「せつなちゃん、本当なの?」 その言葉にビクッと反応して、あゆみが抱きしめる手に力を入れる。 「どこにも行かせない!」そう宣言するように……。 せつな――せつな――せつなちゃん――せっちゃん―― せつな――せつな――せつな。 繰り返し、何度も呼ばれる名前。 必要とされている。愛されている。それは、イースであっても何も変わらない。 確かに――そう感じられた。 その瞬間、イースの体が眩い光を放って元のせつなの姿へと戻った。 そして、そのまませつなの意識は闇へと沈んでいった。 「せつな、せつな、せつな」 ラブにゆすられ、声をかけられて、せつなは急速に意識を覚醒させる。 鼓動が早鐘のように打ち、身体は酸素を求めて大きく喘ぐ。 冬なのに汗をかいて、下着がかすかに湿っていた。 「ラブ? ここは……。私は――?」 慌てて腕や髪を確認する。赤いパジャマ、髪の色も黒い。 「勝手に入ってきてゴメン。窓から覗いたら、うなされてたように見えたから……。悪い夢を見たの?」 「夢? そう――夢だったのね」 どうして、あれを現実だなんて思ったんだろう? よく考えてみれば、おかしいところがいくつもあった。どこか雑で、曖昧で、いい加減な世界だったと思う。 何もかも都合が良くて――ううん、何もかも都合が悪くて―― どっちなんだろうと思う。そう、どちらでもあった。 「これは私の――初夢だったのね」 「辛い夢だったの?」 泣きそうな顔で心配して尋ねるラブに、そっと首を振った。 楽しいだけの夢ではなかったけど、嬉しい夢だったと思えるから この夢が自分に何を伝えようとしていたのか、はっきりとはわからない。 ただ、気持ちのどこかで、イースであったことを隠しているやましさがあったのだろう。 だから、せめて―― 夢の中で、一番後ろめたさを感じている人たちから、許しを得ようとしたんだろうと思った。 現実は、こんなにすんなりは行かないだろうと思う。 でも精一杯生きて、そんな自分に自信が持てるようになったら、いつかみんなに話そうと思った。 かつてイースであったことを、キュアパッションとして戦ったことを、せつなとして生きてきた日々のことを。 そして――ラビリンスであった出来事の全てを。 科学の発展と、利便性の向上と、そして、秩序と管理の行き着く果てのことを。 それがラビリンスに生を受け、この世界でプリキュアに選ばれた自分の使命だと思えた。 「せつな? 大丈夫なの?」 「心配かけてごめんなさい。平気よ、素敵な夢が見られたわ」 「そっか、良かった。今日は美希たんとブッキーと初詣だよ。行けるよね?」 「もちろん! シャワーだけ浴びさせてもらっていいかしら」 「うん! じゃあ、おせち料理の準備しておくね」 「あ、そうだ! 昨夜も言ったけど、あけましておめでとう、せつな。今年もよろしくね!」 「ええ。あけましておめでとう、ラブ。今年もよろしく!」 かつて夢に見た日常が現実になって。かつて過ごした非日常が夢となって。 幸せに溺れず、でも、幸せから逃げず、真っ直ぐに生きて行こう。 ひとつひとつ、小さなことからやり直していこう。 そして、この街の幸せを守り、伝えて、広げて行きたい。 いつか、全ての世界を、笑顔と幸せで一杯にするために。 私――精一杯がんばるわ。